2020.09.02
職業、小説家。突然ですが小学四年生がママになりました。『ママごと ―小学生ママと大人のムスメ―』つづら涼【おすすめ漫画】
『ママごと ―小学生ママと大人のムスメ―』
職業、小説家。突然ですが小学四年生がママになりました
年上の人間が幼い子どもに感じる母性・包容力のことを「バブみ」と呼ぶようになって久しい(最近は「幼い」の意味で使われていますが)。
マンガやアニメの場合の「バブみ」は、物語的には年上側が幼子に傷ついた心を受け止めてもらえるシチュエーションを描くことで、完全なる純粋さと癒やしがより強調される構造だ。
しかしここで疑問が湧く。ではバブみを感じさせている幼子側はどういう過程を経て包容力を持つようになったのか。なぜ年上を甘やかす心理が生まれるのか?
ここに切り込んだのが『ママごと』という、子供の方がママになるバブみ作品。ただし大人側が彼女を見る視線は冷静でフラットだ。
なかなか書けない作家の大柏柚(おおかし・ゆず)。生活力は皆無で、部屋は汚れ放題、料理はしない、外にもあまり出ない。
そんな彼女を見て、隣に住む小学四年生の小森真琴(こもり・まこと)は決心する。
「まこがママになっておねえさんをお世話してあげます! まこはオトナですから!」
かくして、毎日のように真琴は柚の家を訪れるようになる。掃除に料理、耳かきまで。年上の柚を「柚ちゃん」と呼び、自分のことを「ママ」と呼ぶよう強制しはじめる。
徹底して柚視点で描かれているため、真琴の異様さが目立つ。小学生がお母さんのごとく完璧に世話を焼いてくれる日々。押しの強さに面倒臭さを感じつつも、心地よさや亡き母の懐かしさを思い出し、困惑。序盤は圧倒的真琴のバブみに押され気味。
しかし真琴がなぜこのようなママ活動を押し付けてくるのかが、次第に見えてくる。彼女自身はたしかに年齢にそぐわないくらいしっかりした子ではあるが、同時に普段忙しくて家にいない母親への執着がものすごく強い。
「オトナになれば…ママになればお母さんの気持ちがわかるのかな…」
物語は「子どもが大人を癒やす物語」から、「大人が子どもの心を満たすべき物語」にも幅を広げていく。
巻き込まれたかのごとき柚の心理の変化が見どころだ。真琴は本気で柚の世話をしてくれているしそれ自体はありがたいのだが、彼女の気持ちを徐々に悟り始めるうちにどう接すればいいかを考え始める。真琴を「ママ」と呼ぶのは甘えるためではなく、彼女の心を満たしていくためでもあるのだ。
今後真琴の寂しさが充足していく方向に進んでほしいものの、そこで真琴と柚はお別れ、ともならなさそうだ。甘える甘えられる関係がどちらかに偏らなくなった時、相互に心が満たされる、年の離れた大切な友人へと変化していくのかもしれない。そういう点で「おねロリ」好きな人におすすめします。
©つづら涼/スクウェア・エニックス