2020.09.06
「友人キャラ」ポジションで生きることに情熱を燃やす、一人の少年の姿を描いたメタコメディ!『友人キャラは大変ですか?』横山コウヂ,伊達康【おすすめ漫画】
『友人キャラは大変ですか?』
本日紹介するのは「MAGCOMI」で配信中の『友人キャラは大変ですか?』という作品。
同名ライトノベルのコミカライズで、原作のほうからタイトルをご存じのかたもおられるだろう。
本作が描くのは、タイトルにある通り「友人キャラ」ポジションで生きることに情熱を燃やす一人の少年の姿である。
例えば、ラブコメやエロコメでヒロインたちに囲まれる主人公に「なんであいつばっかりあんなにモテるんだー!」と羨望の叫びをあげる三枚目。あるいは転校してきた主人公に声をかけ、他のメインキャラと知り合うきっかけをつくる親切なクラスメイト……。
つまりは、主人公とふつうレベルで仲がいい友達である。世界に起きている異変には直接関わらない一般人。ストーリー本筋の合間に挟まれる“日常パート”に登場し、シリアス展開にほっと一息つかせるコメディリリーフだ。
ただし、友人キャラが主人公を引き立てることで主人公がどれくらいの重みをもってその物語世界で活躍するのかが照らしだされ、作品の内容はより豊かになる。そういう意味で大事な役回りでもある。
さて、そんな役割を積極的に担当したいと心から望んでいるのが、「友人のプロ」を心の中で自称する小林一郎という少年だ。
小林くんは幼少期にお芝居で脇役を演じて絶賛されて以来、様々な物語で主人公ではないサブキャラ……ヒーロー特撮なら戦隊のリーダーではなく相談相手の“おやっさん”ポジションのような方面に魅力を感じながら育ってきた。そこからやがて、自分もそのような生き方をしたいと志すようになったのだ。
小林くんは、リアルで優れた資質をもつ同世代の人間を見つけては親しくなり、アドバイスやひそかな支援工作をおこなうすべを身につけた。
恋する者のカップル成立をはからい、不良に学校のてっぺんを獲らせ、部活員をエース選手に……と、友達を主人公っぽい地位へと押し上げることで自分を「主人公の友人キャラ」に位置づけ、愉悦を味わうのだ。
そうやって主人公プロデュースに生きる彼が高校に上がってついに出会った、主人公オブ主人公な親友。
名前は、火乃森龍牙という。「火」「龍」「牙」! もう名前からしてかっこよくて主人公っぽい!
さらに龍牙は自分の過去をあまり話そうとせず、どこかへ姿を消したかと思えばキズを負って戻ってくる。周囲には学園のアイドル、剣術が得意なクールビューティ、謎の外国人転校生など美少女がいっぱい。最高だ。最高にアニメとかに出てくる主人公っぽいじゃないかお前!
かくして小林くんはお調子者の友人キャラとして騒ぎたて、龍牙のハイスペックを際立たせようとする……。
という具合に、小林くんの性格造形だけでもすでに面白いのだが、本作の真骨頂はそこからの大きなひねりにある。
じつは龍牙やヒロインたちは本当に超自然的な力をもってファンタジーな怪物を相手に戦っている。小林くんはそれを知ってしまい、秘密を共有したため「ストーリーの本筋には踏み込まない一般人」「日常パート担当」という前提が危うくなるのだ。
さらに、龍牙とヒロインたちのハーレムラブコメな仲を調整してやろうと動いたのが裏目に出まくり、ヒロインたちはなんと小林くんに対する好感度を高めることに。
しまいには龍牙との友人関係にも重大な変化が訪れて(これは実際に読んで確かめてほしい)、気が付けば──。
おや? 小林くん……メインキャラになってない? これはまずいぞ!
そう、本作は小林くんが気楽に友人キャラポジションを堪能する物語ではない。むしろ逆。メインキャラ設定を次々と積み上げられてしまう少年が、物語の押し付けてくる役割をふりきってなんとか自分をただの友人キャラに格下げするべく右往左往する奮闘記なのだ。
読者である我々からすると、小林くんの願いがいかに達成困難なものかは痛ましいほどに明らかだ。
強い目的をもち、それにむかって必死で努力し、その姿にカメラが当たり続ける。それは結局のところどこまでいっても主人公というポジションに他ならない。脇役になりたい! と望めば望むほど、“そういう物語の主人公”という格がついてしまう構造上の皮肉がある。
それはもはや呪いに縛られるのに近い状態だ。はたしてどうやれば解けるのだろうか? キャラクターの役割論を中心にすえた喜劇として、数々のギャグに笑わされながら同時に深く考え込まされもする。
ちなみに本稿執筆時点で9巻+番外編が出ている原作小説では、小林くんはその身に主人公キャラと敵対する勢力のボスキャラ級の因果を差し込まれたり、家族関係で重要な設定が明かされたりとますますメインキャラ道に引きずりまわされている。
タイトルに曰く『友人キャラは大変ですか?』……そう、しきりとドラマティックであろうとする世界で、ただの友人キャラにおさまる事こそ本当に大変なのだ。
©横山コウヂ,伊達康/マッグガーデン