2020.09.28
人間に捕らえられた鬼の子×見世物小屋の美青年。社会から弾かれた異端同士の恋が美しい筆致で描かれた、時代物BL!『べな』こふで【おすすめ漫画】
『べな』
江戸時代が舞台の時代物異種間恋愛BLです。
カップリングは、「人間に捕らえられた鬼の子×見世物小屋の美青年」という組み合わせで、当時の一般社会からははみ出た者同士がくっついたとも言えます。
双子で生まれたために親に捨てられ、見世物小屋で働いていた壱は、弟を病で亡くしたため、「同じ顔の人間が2人」という見世物としての価値が下がり、猿轡をかまされたケモノの世話役を言いつけられます。まったく人に懐いていないケモノを見世物小屋の人々は「バケモノ」と呼び、壱もそれに倣っていやいや世話を始めます。
世話をするうちに、壱はこのバケモノが、いわゆる四つ足の獣ではなく人間の子供であることに気付きます。正確には人間に見える鬼の子なのですが、拙いながらも意思の疎通ができて世話をしている自分に懐いてくる子供に亡くなった弟を重ねた壱は、彼に「べな」という名をつけて何とか助けようとします。
やがて彼らは見世物小屋を逃げ出し、長屋で身を寄せ合いながら暮らすようになります。壱は日常生活の傍らでべなの親を探しますが、もちろん人間社会に鬼の子の親はいません。
壱はべなを支えるつもりが支えられ、べなはもともと世界のすべてがほとんど壱で占められており、もう彼らの感情は、親子間の愛情なのか恋愛感情なのか共依存なのか、判別するのは難しいぐらいいろいろ混ざり合っています。お互いに相手しかいない孤独な身の上で、その相手に好意を抱いてしまえばもう行きつく先は決まったようなものだったのかもしれません。
お互いに少しずつ救われながら、日常の幸せを積み重ねながら暮らして、最終的には一波乱ののちに好き合っている気持ちを確かめ合って相思相愛になります。
あまり男同士というところに葛藤がないのは、男色が現代よりも身近だったせいもあるかもしれません。社会から弾かれた異端同士の恋という方がしっくりくるストーリーでした。
美しい表紙を裏切らない内容で、本編の絵も美しく世界観に浸るのに申し分ないクオリティといえるでしょう。大型新人の呼び名に恥じない作品です。
©こふで/双葉社