2020.10.18
とある女系家族・八条寺家の日常風景を悲喜こもごもに描く、珠玉のヒューマンドラマ!『ブランチライン』池辺葵【おすすめ漫画】
『ブランチライン』
『プリンセスメゾン』などを描かれている池辺葵先生の新連載『ブランチライン』の第1巻が発売されました。
女系家族の物語
描かれるのは、とある女系家族・八条寺家の日常風景。
アパレル通販会社で働く4姉妹の末っ子・仁衣。喫茶店を営む三女・茉子。役所勤務の次女・太重。シングルマザーの長女・イチ。そして、実家を一人で守る母。今ではそれぞれ別々に暮らし、それぞれの毎日を過ごしている5人をめぐる、家族の在り方についての物語。
池辺葵作品ってのはどれも地味で、一言で魅力を伝えるのが難しい作品が多いのですが、本作もまた池辺ワールド全開で、絵面もストーリーも地味なんですよ。
でも他の漫画の比にならないくらい、心の深いところからじんわり感動が湧き出てくるわけで、今回もまんまとやられたなぁと、満足感たっぷりで本を閉じました。
池辺葵作品に登場する女性たちは、自分にとって大切なことが分かっていて、筋が通っていて、背伸びをせず等身大で、毎日を大切に、真摯に生きている印象があります。またその真面目さが全然押しつけがましくなくて、背中で語る感じが本当に格好いいんですよね。
本作では四女・仁衣がまさにそんなキャラクター。決して口数多くなく、感情を表に出さない子なんですけど、服に対する信念と情熱が、その一つ一つの言動から伝わってきます。
八条寺家の宝物と罪悪感
てっきり服ばっかりなのかと思いきや、もう一つ大切なものがあり、それが物語の一つの核となります。それが、長女・イチの一人息子である岳。
冒頭に”シングルマザー”と説明した通り、イチは岳が幼い時に離婚をしており、以降実家に戻り八条寺家全員で岳を育ててきました。岳はいわば八条寺家の宝物。
それは彼に最も年齢が近い仁衣にとっても同じで、幼い叔母さんとして、彼に色々な形で愛情を注いでいます。
これだけであれば、幸せなファミリーストーリーですが、同時に離婚するか悩み疲弊する長女の姿や、離婚後に父と会いたがり泣く岳の姿を目の当たりにして、複雑な感情を抱くのです。
「罪悪感」と帯では謳われていますが、どうしてそんな感情を抱くのか、そしてその想いを抱える彼女が、日々をどう生きるのか、是非とも作品を読んで目の当たりにして頂きたいです。読み終わった後もう一回頭から読みたくなるから。てかたぶん読むことになるから。
じんわりあったかい
本作で描かれている情景ってのは現実世界においてもさして珍しいものでもなくて、そんな、ともすれば「なんてことない光景」を、どうしてこうもエモーショナルに描けるのか。
正直1巻でもう完成していて、これで「完」となっても全然違和感ないんですが、これ巻数付きで2巻出るんですって。続きを読める嬉しさと共に、「蛇足にならないよね?」という不安がちょっとだけあるぐらいには、現時点で満足度が高いです。
なんか稀代の名作であるかのごとく、すごく推してる感じ出してますが、池辺作品としては平常運行のような気もしますので、フラットな気持ちで手に取っていただければ。いずれにせよ、オススメの一作でございます。だんだん寒くなってくる季節。この作品を読んで、心だけでも温かくしましょう。