2020.11.13
子育てを終えたとある女性の”それから”を描いた、きらめきもほろ苦さも味わい深いヒューマンドラマ。『まにまに道草』大町テラス【おすすめ漫画】
『まにまに道草』
大学進学を機に親元を離れて一人暮らし。初めての生活に不安を覚えつつも、いつしか寂しさも消えて、新しい日々にすっかり適応し楽しみ出す……。こうした変化の風景は、自分自身で身をもって体験し見てきたものですが、子供だけでなく、見送る側の親もまた、子供の自立を機に変化しているのです。
本作『まにまに道草』は、子育てを終えたとある女性の、”それから”を描いたお話。
物語の主人公は、昨日、娘が大学進学のために家を出た、主婦のハルコ。空になった娘の部屋を掃除し終え、少し思いを巡らせた後、「好きに過ごそう」と、あてどもなく外へと出かけるのでした。目に入ったクレープを買ってみたり、近所の銭湯に通うようになったり、夫と久しぶりにデートに行ってみたり……ハルコの日常が、もう一度輝き出しはじめる……
どんどん行動範囲を広げる
ハルコさん、最初は近所をうろうろして気になるお店に入ったりして、ちょっとした日常の中の非日常を楽しんだりするんですけど、この辺はまさに定番というか、このタイトルからイメージする通りですよね。
けれどもさらにそこから、知人からのお願いを受け入れる形でデザイナーとして仕事復帰してみたり、さらにそこで知り合った若い女の子との会話から、〇〇フリックスでドラマを楽しんだり、さらには推しのアイドルを見つけて握手会に行ってみたりと、どんどん新たな領域へと行動範囲を広げていくのです。
もはやそれは「道草」ではないんじゃないかって感じもするんですが、人生における道草ととらえるとすとんと腑に落ちる。そこそこの年齢ながら、この行動力。そういえば私の母も、子供たちが家を離れたら色々なお稽古ごとに行ったり、最近は地元サッカーチームのサポーターになって毎試合観に行ってたりするから、子育て後の母親としては割とあるあるなのかもしれません。
すごいですよね、このバイタリティ。自分がリタイアした時に、こんなに活き活きと出かけている画が想像できないです。
ほろ苦さもまた味わい深さ
さて、これだけ書くとハルコさんがどんどんと新しい道に進んでいく感じがしますが、相応に重ねた年齢ゆえに、決して明るいだけじゃない経験もしてきているわけですよ。
子供が離れた寂しさも、新しい経験が流れていく喧騒の合間を縫ってふとハルコさんに襲い掛かる。そういったほろ苦い思い出や、楽しい記憶があるがゆえに今のその落差に落ち込んだりする瞬間が、物語により一層の味わい深さを与えます。
こういう作品を読むと、歳を重ねていくのも悪くないなと思わせてくれるんですよねぇ。読むとほんのり明るく、すっきり前向きな気持ちにしてくれる本作、ちょっとした道草として、手に取ってみてはいかがでしょうか?
©大町テラス/講談社