2020.11.21

不死身のゾンビが、スタントマンとして過酷な撮影をなんとか乗り切っていくお仕事コメディ!『死がない伏見くん』こんのあらた【おすすめ漫画】

『死がない伏見くん』

今回のピックアップは「コミックNewtype」で配信中の『死がない伏見くん』。「その発想があったか〜」と膝ポンなコンセプトのお仕事コメディだ。

格闘、爆発、落下、水没、カーチェイス、その他もろもろ……。映画やドラマでわれわれをギョッとさせ、また興奮させる危険な映像の数々。そこには文字通り体当たりの芝居を俳優にかわって引き受けるスタントマンの活躍が裏支えとして存在している。

スタントマンの携わるアクションは、安易にマネすれば大怪我や死をまねくようなものが主だ。時代が進むにつれて安全性への配慮は高まっているが、それでも危険がゼロになることはない。

だが、しかし。もしも“それ”がすでに死んでいる者だったら? どれだけ殺しても物理的に死なない不死身のゾンビがスタントマンをやっていたら……?

主人公の伏見くんは世界的な映画スターにあこがれ、俳優の道を志す青年である。そして同時に、彼はなぜかゾンビである。

本人のやりたい芝居とは裏腹に、事務所がまわす仕事はいつも危ないスタントばかり。炎をあげて吹き飛ぶビルから飛び降りさせられ手足がもげるわ、高い階段から突き落とされて首と胴体が前後逆にねじれるわと悲惨な目にあいまくる。

でもけっして死ぬ事はない。だって伏見くんはゾンビだから。もう死んでるから。

彼の体質をいいことに淡々と仕事をふってくるマネージャーや、スタントマンだから当たり前だろうと気に留めない現場スタッフにげんなりしながらも伏見くんは毎回ゾンビならではの超耐久性によって過酷な撮影をこなしていくのだった……。

不死身にかこつけて肉体をたやすく損壊する本作のシチュエーションは、人体に対する非現実レベルの乱暴さでまず笑いを引き起こす。それはゾンビ物の醍醐味だ。と同時に「実際のスタントマンは命を守りながらその仕事を成し遂げてるんだよなあ」と現実のデリケートな部分に思い至らせもする。

そう、単に危険な行為をして死ぬだけなら芸のない素人にもできる。技術を磨いたプロのスタントマンのすごさとは、危険行為に挑めるという以上に「死なずに演じきることができる」ところにあるのだ。伏見くんの容赦ない死にっぷりは、逆説的にスタント俳優の本質的な職分をあらわしている。

ゾンビがスタントマンをやる、言葉にすればそれだけのごくシンプルな図でフィクションとリアルの核心をねじってつなぐ。なんとも題材立てが上手い作品だ。

「今日は本当に疲れた……死ぬほど…」

と死人に言わせてしまうお仕事の大変さよ……と遠い目になってしまうが、そのあまりの不憫な様子から伏見くんが可愛く見えてくる。がんばれ伏見くん! あこがれの映画俳優になるその日まで!

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miyamo

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