2021.01.09
ホラーキャラたちの和気あいあいとした日常の交流を描きつつ、ホラー作品の舞台裏の様子ものぞかせるWebマンガ!『KILLER’S HOLIDAY』松(A・TYPEcorp.)【おすすめ漫画】
『KILLER’S HOLIDAY』
ホラーというジャンル、とりわけ殺人鬼を描くものは作品の恐ろしさに芯を通す印象的なキャラクターをいかに造形するかが成否を分ける。
例えば映画ならレザーフェイス、ジェイソン、ブギーマン、フレディ、チャッキー、貞子、伽椰子、etc.……すぐれたホラー物は同時にすぐれたキャラクター物でもあるのはみなさんお分かりだろう。
ときに宣伝でゆるキャラめかしたディフォルメをされたり、異なるシリーズ同士で夢の共演をはたすコラボ作品なんてのが成り立つのもそういう、何をさせても崩れないキャラクター強度の高さゆえである。
さて、今回紹介するのはそうしたホラーキャラクターの性質を逆手にとり、キャラはホラーなのにやってることは和気あいあいとした日常の交流という愉快なひねりをみせるWebマンガ『KILLER’S HOLIDAY』(キラーズ・ホリデイ)だ。
本作の概要はいたってシンプル。「有名なホラー映画キャラっぽい殺人鬼たちが、オフ会で酒を呑みながら雑談に花を咲かせる」──これだけだ。
仮面をかぶった巨体の食人鬼・ハリー、殺人トラップゲームを主催するサイコキラーなアメリカ人青年・リチャード、黒髪ロングに白いワンピースの女性怨霊・ヨシエ。
この三人を主として、テーブルを囲みワインとおつまみを肴に「家のそばではしゃぐカップルを懲らしめてやった」やら「殺人ゲームでこういう演出をして犠牲者をビビらせたた」やら「んー! って念じたら人が死にます」やら、近況報告で毎回盛り上がっていく。
そう。このホラーキャラたち、すごく仲良しで微笑ましいことこの上ない。
他のメンバーの暮らしぶりを気にかけ、相談しあう優しい気遣いもありほのぼの感100%。……なんだけれども、それでいてちゃんと殺人鬼として殺ることは殺ってる物騒さがおかしなギャップ感を醸し出している。単にキャラクターに対してジャンルをズラしただけではなく、ホラー作品の舞台裏というか楽屋噺に近い内容といえるだろう。
国や文化によってシチュエーションが違う、殺しに使う技術や能力が違う、殺しの手口が違う、流血や死体に対する感性が違う。
それらをお互いに許容しあう空間はいわゆる“みんなちがってみんないい”みたいな寛容な温かみをたたえており、その温かさが倫理をぶっちぎったところで描かれるヘンテコな味わいがなんとも癖になる。
また、メタ的にみれば殺人鬼ホラー作品をキャラクターの特徴やその背景で並べて比較分類する評論的なことをやっているという見方もできるだろうか。どれが一番かではなく、色んなホラーがあって面白いよね〜という多様性の提示がそこにはある。
ちなみに最近の回では『オーメン』めいた“悪魔の子”設定のキャラも登場。お題となるホラーキャラクターや世界観の幅もより広がってきているぞ。
連載は電子雑誌「コミックライド」およびライド誌のpixiv内メディアにて配信中で、単行本第2巻が2021年1月9日に発売。
AmazonのKindle電子書籍では単話売りもされているので、既存話数でピンポイントに読みたいところがあればそちらも選択肢として検討できるだろう。
©松(A・TYPEcorp.)/マイクロマガジン社