2021.01.13

死に際の恨みを抱えて異世界転生した主人公と、羊人族の少女が繰り広げるファンタジーストーリー!『幼女とスコップと魔眼王』丁々発止, 茅田丸, chibi【おすすめ漫画】

『幼女とスコップと魔眼王』

幅をきかせる悪人が得をする世界を、少年は呪いの眼で睨み返す

異世界転生・異世界転移ものは転生前の原因を簡略化することが割と多い。トラックが突っ込んで来て理由もなく死ぬ、という展開を表す「転生トラック」なんてミームもあるほど。前提である現実世界のあれこれを全部スパッと切り捨てて、ファンタジー世界を描くことに重点を置くための手法だ。

この作品も不慮の事故で転生、という流れ自体は変わらないのだが死ぬ前の恨みの描写が壮絶。その時の呪詛が転生後の物語に大きく影響してくる。

学生の炭原継人(すみはら・つぐと)がバスの席に座っていたところから物語はスタート。あらくれヤンキーな男性に強引に席を奪われた継人は、直後に起きたバス事故で致命傷を負ってしまう。

彼は席を取られたがゆえにガラスの破片で血まみれになり、席を奪ったヤンキーは半笑いで死にそうな彼の姿をスマホで録画している。彼の中で最期に湧き上がったのは、理不尽すぎるこの状況と、悪意を振りかざしているのに得をしているヤンキーと、媚びてしまった自分の選択に対して激しい呪いだ。

転生後、彼には便利そうなチート能力は一切ない。どう生きればいいか途方にくれる彼に、こつこつ鉱石を掘って生き残る術を教えてくれたのが、スコップを持った幼い羊人族(ようじんぞく)の少女ルーリエだった。

憎まれっ子世にはばかる。残念ながら現実でも悪いやつほど生き残っちゃったりするもの。法がゆるいファンタジー世界ではなおのこと露骨に格差が生まれやすい。

ルーリエは極めて純真な少女で、こつこつと魔力鉱石を掘る奴隷の一人。そんな彼女から一部の大人たちは鉱石を奪い取ろうとする。抵抗する彼女の顔を大人の男たちは拳で殴り、腹をブーツで蹴り上げる。漫画の中で描かれる悪人たちは、明らかに弱者であるルーリエに一切容赦をしないため、どんな理由があろうとも許せない悪としての印象が強く残る。

現実世界でもファンタジー世界でも、理不尽な暴力にどう抗うかがこの物語の軸になっている。生きる知恵として頭をヘコヘコ下げるのは賢いかもしれない。しかし自身がそれによって死んで恨みをためたこと、眼前で幼い少女が死に瀕するレベルのひどい目にあうことを、継人は許容できなくなっている。

彼が戦うべきは、今のところはモンスターではなく悪意のある人間のようだ。

ほとんど現実世界と同じ素のままな能力の継人。ただ生前の恨みが強すぎて「呪殺の魔眼」なる能力を気づかぬ内に手に入れる。

しかしこれがなんなのか、どう使えるのかは現時点では全然わからない。それどころか自身が「呪い」のステータスにかかった状態だ。これが彼らにとっての武器としてプラスに作用するのか、あるいは蓄積する呪いのデメリットになっていくのかが物語の大きな岐路になりそうだ。そもそも怒り恨むことが、精神的な幸せとしての解決策なのかどうかも、現時点ではわからない。

ただそんな理屈を考えることなどできないくらい、少女を残虐な目にあわせる悪人たちへの、継人の恨みの瞳の描写は強烈だ。呪い呪われる少年の行末は幸福か、地獄か。呪わなくていい状態で2人が幸福を手にしてほしいと願うばかり。

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たまごまご

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