『リリィ・トライアングル』

今回紹介するのは、星海社「ツイ4」で配信中の『リリィ・トライアングル』。強烈なクセのある3人の少女たちが執着心の矢印をぐるぐる巡らせる、学園コメディ百合漫画だ。

高校1年生にして生徒会長をつとめる獅子王救世子（ししおう くぜこ）。いつも光り輝かんばかりのオーラを放って一般生徒のあこがれを一身に集める、学校のカリスマ。王子様的存在。しかし内心、彼女はまわりからチヤホヤされて全てが上手くいく都合のいい人生に疲れていた。

ああ、自分に何も求めない誰かからお前など不要だと冷たくあしらわれたい。面目をつぶされる挫折を経験して、本物の人生を生きてみたい！

そんなマゾヒスティックな願いに身を焦がす救世子の前に現れたのが、大きな体格と不愛想な態度で威圧感を帯びた少女・十槍寺美虎（じっそうじ みとら）。

「…どうでもいい あんたに用はない」

偶然の出会いがしらに放たれた美虎の第一声はまさにど真ん中ストライク。救世子は無下にされる快感に酔いしれ、美虎にそっけなくされればされるほど夢中になっていく。

一方の美虎はといえば、彼女の方にも別に執着する相手がいた。幼馴染の少女で、名を桜涙河小姫（おうるいが こひめ）という。幼いころから美虎は小姫のそばにいて悪い男たちから彼女を守るボディーガード役を自認してきた。それが高じて小姫を守る行為に心を満たされ、人生の全てと思うまでになっている。

では、その小姫は？ 彼女は生徒会に所属しており、そこで密かに憧れているのが、そう。救世子である。熱烈な信仰心をもって生徒会長を見つめ、ちょっと声をかけられただけでも口から魂が抜けるほどの感激で気絶する始末。

自分のことを自分でコガネムシあつかいする卑下の激しさもあいまって、もはや天使を前にしてひれ伏すような勢いだ。

かくして救世子が美虎に塩対応を望み、美虎が小姫を護ろうとし、小姫が救世子を崇めて──と無限にまわる百合の三角関係ができあがり。これを題して『リリィ・トライアングル』という次第である。

ツナミノユウ先生の作品といえば、学園コメディのほか人外ラブコメ、SF、バトル仕立てのメルヒェンファンタジー……と引き出しが幅広い。それらを見渡す際とくにキャッチーな要素が、『つまさきおとしと私』や『ふたりモノローグ』に見られるような高濃度な情念の描きぶりだ。

特定の相手へ向けてドロドロと偏執的な方向にうずまく思考と、隠してもあふれでる奇行の数々。だがすべては一途で純真すぎる思いが煮詰まった結果なので可愛らしくもある、そんな少女たちのキャラクター造形。

本作は、まさにそのツナミノユウ作品の真骨頂がメインキャラ全員に投じられたボリューミーな一作となっている。

なお、回が進むにつれて3人はそれぞれの弱みや短所をうっかりさらし合い、最初の癖（へき）は維持しつつも対等に親しい友人関係へと整っていく。そこも大きな見どころだ。

“三角”なラブコメ関係が仲良しトリオの“輪”を兼ねるようになるトポロジカルな変化の流れを、じっくり味わってみてほしい。

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©ツナミノユウ/星海社