2021.02.27
アニメも放送中の人気ファンタジー作品のスピンオフ!「並列意思」で分裂させた4つの意思が、何故か実体化して展開される日常コメディ!『蜘蛛ですが、なにか? 蜘蛛子四姉妹の日常』馬場翁, グラタン鳥, 輝竜司, かかし朝浩【おすすめ漫画】
『蜘蛛ですが、なにか? 蜘蛛子四姉妹の日常』
地球の女子高生だった記憶を持つ主人公「私」。とある事情で異世界へ飛ばされた彼女は、なんと蜘蛛型の弱小モンスターの身体に生まれ変わりをさせられる。しかも生まれた場所は迷宮と呼ばれるほど入り組んだ地下洞窟。毒カエルや巨大蛇に大ナマズ、はてはドラゴンまで上位捕食者がひしめく地獄のような環境だ。
スタートからいきなり超ハードモード、だけど何が何でも生きていたい! 強烈な生存欲求に突き動かされる「私」は、過酷な戦いを経て獲得できる特殊スキルをフルに活かし、魔物たちの種族ヒエラルキーを下剋上していく!
……というのが、小説『蜘蛛ですが、なにか?』のあらまし。いわゆるなろう系異世界転生ファンタジーでは人間以外の種族、それもヒト型ではない存在への転生を描いたものがサブジャンルを確立しているが、そのなかでとりわけ認知度の高いタイトルのひとつだ。
そして今回紹介するのは、本編の設定へアレンジを加えてギャグに寄せた独自展開のスピンオフ作品。「ヤングエースUP」で配信中のマンガ『蜘蛛ですが、なにか? 蜘蛛子四姉妹の日常』である。
タイムライン的には商業小説版の3巻以降からしばらくの間までの時期をもとに枝分かれしており、具体的にはスキル「並列意思」を身につけた結果を大胆にひねった内容となっている。
本来は合計4つの人格をつくりあげて脳内会議をおこない最適な行動プランをはじき出すところを、何かの拍子にそれぞれの人格が実体化。物理的に4匹の蜘蛛子さんズが誕生してさあ大変、という状況立てだ。
あふれる知的好奇心にかられて鑑定スキルを乱用する「情報担当」。
筋トレマニアかつ好戦的な熱血体力バカ「体担当」。
夢見がちなスピリチュアル発言で他メンバーを困惑させる「魔法担当1号」。
手品を披露しようとしては可愛らしいドジを連発する、ひとなつっこい末っ子タイプ「魔法担当2号」。
事実上四つ子の姉妹となった彼女たちは洞窟の一角にこしらえた共同生活用の空間を舞台に、それぞれの性格にもとづく無茶な行動からくるハプニングの数々で大騒ぎな毎日を送る……。
サバイバル冒険譚として進む本編に対して当作では、溜まりがちなゴミの始末に難儀するとか部屋の割り当てでモメるなど生活感のあるエピソードがちょくちょく挟まるのが特徴。同じ洞窟に巣くう他種モンスターたちも回によってはご町内のゆかいなご近所さんみたいな風情で、題名どおり「日常」をどこまでもギャグ風味で描いていく。
この趣は、例えば『フルハウス』的なファミリー系シットコムの角度から読んでみると波長を合わせやすかろう。姉妹のホームドラマといえば『やっぱり猫が好き』を引き合いに出してもいいか。
なお、2021年1月開始のアニメ版では第6話で初めて「並列意思」が発動するので、原作も本編コミカライズも未読でアニメのみ追っているかたはひとまずそのあたりまで見ておくと当スピンオフがどういう趣向なのか呑み込みやすい。厳密には本編のもうちょっと後で登場するキャラクターも顔を出すので予備知識があるにこしたことはないが、ともかく最低必要限には蜘蛛子が分裂したという状況のニュアンスがつかめればそれでいい。
もちろんいきなりスピンオフから読んでみて「なんだか可愛くて我の強い蜘蛛ちゃんたちがわちゃわちゃしてるな〜」と見たまま楽しむのも、それはそれで味のある体験となるだろう。
©馬場翁, グラタン鳥, 輝竜司, かかし朝浩/KADOKAWA