2021.03.20
誰より強いコワモテの老刑事が、誰よりか弱い赤ちゃんにオロオロさせられる、剛柔のギャップが愛らしいファミリーコメディ!『じじいくじ 〜元最強刑事の初孫育児〜』上地拓郎【おすすめ漫画】
『じじいくじ 〜元最強刑事の初孫育児〜』
本日ご紹介するのは「コミックウォーカー」および「ニコニコ静画」でKADOKAWAの男性向けWebコミックレーベル「COMIC Hu(コミックヒュー)」により配信中のこちら、『じじいくじ 〜元最強刑事の初孫育児〜』。
主人公・小林鉄男は、人並外れた凄腕で街の平和を守ってきた元・刑事だ。街のチンピラ、裏社会の極道、世間を騒がす強盗犯……捕まえたならず者たちは数知れず。悪党に恐怖される正義の味方。“鬼鉄”の異名にふさわしい男である。
そんな彼も年を取り、現役を引退した。しかし初老の一般人となっても鬼に安息の日々はない。いま鉄男は、これまでのハードな人生のなかでも経験したことのないやっかいな任務に挑んでいる。
それは、育児! かわいい初孫のお世話である!
娘・咲が生んだ赤ん坊の名は鉄斗くん。その父親が単身赴任で一年間、家をあけることになってしまった。母親ワンオペの育児では負担が大きいだろう。そこで鉄男が家事に参加しているのだ。
まだ首もすわらぬ新生児をそっと抱きあげる。湯につけて身体をきれいにしてやり、おむつをかえてやり、泣きだせば原因を探り……。繊細な作業の数々が、豪快な生き方をしてきた鬼鉄を毎度悩ませる。しかし苦労は多くとも、孫の成長を間近に見守るのは何にも代えがたい喜びだ。
そして今日もまた、元最強刑事と、この世でもっとも手ごわい存在との優しいバトルが繰り広げられる──!
誰より強いコワモテの老刑事が、誰よりか弱い赤ちゃんにオロオロさせられる。そんな剛柔のギャップが愛らしいファミリーコメディとしての面白さがまずは本作の読みどころだが、それだけでは終わっていないところに注目したい。
赤ちゃんのお世話には、なにかと体力、精神力が必要だ。たえまなく用事が生じて睡眠のリズムも崩れがちになる。また、短期間に消費される何枚ものおむつをはじめ物資も大量に調達しなくてはならない。
こうお世話すれば必ずうまくいってどんな赤ちゃんでもおとなしくしてくれる……そんな“正解”は存在しない。毎回そうした育児の難しさを、コメディを維持しつつ正面から描いているさじ加減が大変うまいのだ。
立派な保護者になりたい、完璧に育児をこなしたい……その願い自体は立派なものだ。しかしそれらが「完璧にしなければならない」と強迫観念におちいれば、自分や周囲を苦しめる危険がある。だから可能なかぎり、頑張るけど“頑張りすぎない”塩梅が望ましい。そうしたフォローが劇中では何度も念押しされている。
突進してくるバイクを素手で止められるような元最強刑事でも赤ちゃんのお世話には手を焼く。それほどの務めなのだから、普通人の我々が難儀したって当たり前じゃないか。そういう、肩の荷をおろしてくれる救いが本作にはある。
主人公が屈強なタフガイ「なのに」苦労するのではなく、タフガイ「でも当然」苦労する。育児という題材に対して、たいへん誠実なアプローチといえるだろう。
©上地拓郎/KADOKAWA