2021.04.03

ループ物ジャンルの枠に織田信長を投げ込んだ、大胆なシチュエーションの時空SF歴史漫画!『何度、時をくりかえしても本能寺が燃えるんじゃが!?』藤本ケンシ, 井出 圭亮 【おすすめ漫画】

『何度、時をくりかえしても本能寺が燃えるんじゃが!?』

さて、本日のピックアップはこちら。「週刊ヤングマガジン」誌で2020年49号から連載開始、「ヤンマガWeb」でWeb配信もされている歴史漫画『何度、時をくりかえしても本能寺が燃えるんじゃが!?』だ。いやあ、タイトルをぱっと見た瞬間にもう優勝〜! といった感ですな。

時は天正10年。全国統一にリーチをかけていた織田信長が、家臣・明智光秀の起こした謀反によって京の本能寺で襲撃を受け、命を落とす。そう、日本史の一大イベント“本能寺の変”だ。

炎に包まれ、最期のわずかな時を過ごす信長は「敦盛」の幸若舞を歌い踊りながら怒り狂う。なぜ光秀は裏切った!? 天下を治めるはずの自分がこんなところで死ぬ運命など受け入れられない! 死なぬ、死んでたまるか!

しかし、焼け落ちていく建物は無情にも崩落。下敷きになり意識が暗転した信長はあっけなくあの世行きに──は、ならなかった。次の瞬間、彼は謎の空間で目を覚まし、自分の前に可愛いクマさんのような何者かがいることに気づく。

「死は… お前がこれまで辿って来た人生によって 導かれた必然だ いわば自業自得ってヤツさね! …だからやりなおしさせてやる」

突拍子もない宣告を下されると共に、再び闇の彼方へ放り出される信長。

問答無用で送られた先は、驚くべきことに本能寺の変よりも約7年前の時間軸。対・武田家の軍略と丹波地方への侵攻をいかにすべきか家臣たちが大激論をかわしている真っ最中の岐阜城だった。

まわりを見れば、愛妻・濃姫(帰蝶)がいる。血気盛んな柴田勝家がいる。そして涼しい顔で丹波攻めの陣頭指揮をかって出る、明智光秀がいる。瞬間、本能寺の変の記憶がフラッシュバックする信長。このままでは将来、謀反を起こされる。やるなら今だとばかりに光秀を斬殺!

よかったよかった、これで天下布武の道は安泰だ……と思い、改めて行き着いた7年後の天正10年。信長は炎に焼け落ちる間際の本能寺にいた。またか〜!
光秀を討てば代わりに柴田勝家が。勝家を討てば今度は羽柴秀吉が。何度繰り返しても誰かが裏切り、本能寺が燃えるんじゃが!?

というわけで、選択肢をミスれば必ず本能寺の変に行き着くループにハメられた信長は、謀反を起こされる原因を回避する解決ルートを目指すことに。

ある周回では光秀をやさしくねぎらい、別の周回ではそもそも軍議している場所から脱走し、または燃え盛る本能寺からの脱出にチャレンジ。だが、どれもダメ。必ず本能寺の中で死んでしまう。

いったい何がマズいのか。重要な指摘をもたらしたのは、あの謎のクマさんだ。そもそも根にあるのは、信長自身の性格的な問題だという。部下を道具としかみなさず、生殺与奪の権を握って強引にことをなそうとする組織運営を改めなければ、ひとの尊厳をふみにじったしっぺ返しで寝首をかかれる羽目に陥る。

まずは人を殺すな、とクマさんは言う。逆らう者は滅ぼす戦国の価値観にゴリゴリ染まっている信長は、この難題にどう向き合うのか……!

というわけで、ループ物ジャンルの枠に織田信長を投げ込んだ大胆なシチュエーションの時空SF歴史漫画である。

7年前の対応ミス→本能寺炎上の繰り返しがサクサクとテンポよく展開し、あわてふためく信長のやらかしが前面に押し出されるため思わずフフッと笑えるコメディ調でよくまとまっている。

考えてみれば、「織田信長はどんな人物だったのか」「本能寺の変はなぜ、どのように起きたのか」は古今さまざまな小説・映画・漫画・アニメ・ゲームであつかわれてきた題材だ。

そうした“さまざまな作品で繰り返し語られる”歴史上の存在を、ひとつの作品の中で歴史を繰り返す主人公に仕立てたのはなんとも技ありな趣向といえるだろう。

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miyamo

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