2021.04.07

青を基調にしたドット絵で描かれる、消えた女子高生の恋人との恋愛ミステリー『ILY.』なるめ【おすすめ漫画】

『ILY.』

青を基調にしたドット絵で描かれる、消えた女子高生の恋人との恋愛ミステリー

全コマがカラーのドット絵で描かれているかなり珍しい漫画、『ILY.』。

昔の色数が少なかった頃のPCゲームやお絵かき掲示板を思い出すとわかりやすいかもしれない。影のグラデーション部分は二色のドットの密度の増減で細かく表現されている。おそらくペン書きのみではなく、かなり細かなドットの手打ち修正もほどこしているようで、見ていて気が遠くなる緻密な描き方のコマが多い。

ドット絵手法を駆使することで、90年代と00年代の空気感をつまみ取ったようなノスタルジックな感覚で、作品を演出することに成功している。

28歳の冴えないフリーター・成田基生(なりた・もとき)。彼は10年間に消えた高校時代の恋人・百合沢愛理(ゆりさわ・あいり)にメールを送信し続けていた。もちろん届くはずがないのはわかっていたのだが、ある日突然返事が返ってきた。

再会した彼女は、高校時代の姿のままだった。

無邪気で甘えん坊、大人になった基生に上目遣いで「基生ともっと一緒にいたいよ」「せっかくの夏休みなんだよ。いいでしょ?」と話しかけてくる愛理の姿。

セーラー服でちっちゃくておとなしそうな、「無邪気な普通の女の子」のイメージが凝縮されたキャラクターになっている。

だからこそ、彼女が普通じゃなくなる瞬間の不安感が強烈だ。この作品は基調の色として青を多く使っており、愛理の瞳の色も青。加えて愛理に再会したのは、真っ青な空間

その青は非常に重ためな濃い色味で、透明感や清々しさはない、心に沈むような喪失感を刺激する落ち着かなさで満ちている。目が痛くなるレベルに青いので、ドット絵の演出とあいまってかなりのインパクトがあるのを感じられるはずだ。

愛理がなぜ年を取っていないのか。そもそも目の前にいるのは愛理なのか。曖昧な存在の愛理をめぐる感傷的ミステリーとして、挑戦的な表現の作品。この表現だからこそ愛理の不思議な存在感は、特に平成期のゲーム文化に触れてきた人にはかなり刺さるはずだ。

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たまごまご

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