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2018.09.26

【インタビュー】『五佰年BOX』宮尾行巳「既存のタイムリープ作品と違うアプローチで挑んだ」

500年前の室町時代に繋がっている古い箱に干渉すると、現代世界で改変が起こってしまう。幼なじみが消えたり、生きていた人間が死んでいたり。歴史もの+タイム・パラドックスを題材にした、読み応え抜群の『五佰年(いほとせ)BOX』が全4巻で完結!

『五佰年BOX』1巻 書影

一風変わった歴史ものでデビューされた宮尾行巳先生に、歴史とSFを掛け合わせた面白さはどこから生まれたのか。ホラーやギャグもお好きといった一面が作品に投影されていることなど、『五佰年BOX』の魅力に徹底的に迫ってみました!

あらすじ:遠野叶多(かなた)は、幼なじみの真奈の家から奇妙な箱を見つける。箱の中には実際の人間が生活し、よく見るとそこは中世の日本らしき世界だった。好奇心で観察を続けるが、ある時、箱の中で少女が野盗に襲われているのを見てしまい、思わずその野盗を殺してしまう。動揺した叶多は真奈に相談するため彼女の家に向かう。だが、そこで真奈の父親から思いもよらぬ事実を告げられる。「うちには真奈なんて娘はいないよ」と。

既存のタイムリープ作品と違うアプローチで挑んだ

──まずはデビュー作の無事完結、おめでとうございます!

宮尾行巳先生(以下、宮尾):ありがとうございます。やり遂げたという実感はなくて、ふわふわしてます。デビューしたときもですけど、気持ち的には落ち着いていて平坦ですね。

──どういったきっかけで、歴史モノを描かれたのでしょうか?

宮尾もともと歴史が好きなので描きたかった題材でした。でも歴史モノだけだと新人には難しいジャンルなので、歴史にSF要素のタイムスリップも加えたら歴史に興味がない人でも入りやすくなるかなって。

担当編集掴みの一話目がすごいインパクトで、興味を引かれた読者からの反響もすごく大きかったんです。

──わかります。箱の中身が過去と繋がっているという、一風変わったバタフライエフェクトが、すごく新鮮でのめり込みました。

宮尾:そういう風に褒めていただけて嬉しいんですけど、私としてはめっちゃ良いことを閃いたとまでは思ってなくて、「あ、そうなんだ」って(笑)。現代と昔を行き来させるタイムスリップ作品は使い古されていたので、ちょっと違うアプローチで、バタフライエフェクトやパラレルワールドに絡めたんです。

偶然見つけた箱の中身は過去と繋がっていた

──箱の中をいじるたびに現実が変わっていく。その整合性を取るのは大変そうです。

宮尾そうですね、すごく!(笑) タイムパラドックス的な設定は慣れてなかったのもあって、つじつまを合わせるのが本当に大変でした。

箱の中に干渉すると、現在にもすぐに影響を与えてしまう

紙に時系列で書いて年表にしてみたり、いろんな図で書いてみたんですけど、重要なところに「あれもこれも」って線を引いたら真っ赤になっちゃうみたいな。

人形遊びのような無邪気さでも、命を奪ってしまう怖さ

──(笑)。ジオラマとかフィギュアに興味はあったのしょうか?

宮尾:忠実に再現している小さいもの、ミニチュアを見るのは好きです。でもそれよりは、歴史に対して大きな力で、無自覚に干渉していく部分から話を膨らませました。人形遊びのように無邪気に手を加えるだけで、何もわからないままに物を壊したり命を奪ったり。そんな怖さを出したかったんです。

人形遊びのような無邪気さの恐ろしさ

──空中から手が伸びるのは迫力ありました。室町時代の町並みも、かなりリアルに描かれていたのも印象的です。

宮尾室町時代の生活感にはこだわっていて、ファンタジーにならないように気をつけています。昔の衣装は描いていて楽しいんですけど、歴史の資料集めがなかなか見つからずに苦労しました。庶民の家や生活用具って残っている資料が限られてるんですよね。

──有名武将は記録に残ることもありますけど、民衆の文化は資料も少なそうですね。

宮尾:私も含めてほとんどの現代人にとっては、かまどでご飯を炊いたりという経験はありません。生活リズムも現代人からかけ離れているので、室町時代と現代との感覚の違いを、常に忘れないように意識しながら描きました。

──「この時代は命が軽い」って部長も言ってましたし。箱はファンタジーですが、それ以外ではリアリティを追求しているように感じます。

宮尾:そうですね。現代のシーンでも、創作でよく出てくる女性言葉の「~だわ」「~よ」みたいなのは不自然には使わないようにして、普段遣いの口調にしたり。

室町時代と現代では、死生観から全く違う

「怪談を聴きながら原稿を描く」ホラー好きも演出に反映

──SF要素や室町の文化を丁寧に描きつつ、さらに面白いエンタメに仕上げる。難しいことをされてらっしゃいますよね。

宮尾:なので気をつけないと、説明が多くなりがちになってしまいます。ストレスなく読んでもらうための工夫としては、情報を小出しにしています。最小限で最大限にわかるように、セリフを短くまとめて飽きさせないようにするとか。

──それが1ページづつ謎が明かされていくようで楽しかったです。映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』みたいに自分の親じゃなく500年も昔になると、貞清が現代人の誰にどう関係してくるのかも分からなくて。

宮尾:ある程度は運命論を感じさせないとワクワク感がなくなるので、こじつけにならないように、薄い関係性でバランスを取るのは難しかったですね。

──記憶が改変されていく恐怖も、切羽詰まっていて面白かったです。

宮尾:切迫感のある展開を入れないとスピード感がなくなるので、リミットを設けることは意識していました。制限がないと、ずっと箱に触らなくてもよくなっちゃいます。「ゆっくり調べていけばいい」ってならないように、主人公を追い詰める要素として入れました。

リミットがあるため、主人公はどんどん精神的にも追い詰められていく

──記憶が無くなっていく演出として、真奈の顔が真っ黒で塗りつぶされているシーンは怖かった……。

宮尾:真奈の死体の幻を見たりとか、怖い演出は自分の趣味がちょっと入りました。

記憶が無くなる演出が、怖い…!

──ホラーもお好きなんですか?

宮尾:はい。原稿を描きながら、YouTubeで怖い話で片っ端から聴いています。曲を流していると眠くなるので、人が喋ってる方がいいなって。でもうるさすぎるとイライラするので、怪談だとちょうどいいんです。ただホラー映画を流すと、画面を見ちゃうので仕事にならない(笑)。

主人公はあくまでも平凡な現代っ子として描く

──人物を描く時に気をつける点やこだわりはありますか。

宮尾遠野叶多をヒーローにしないことです。八面六臂の活躍をするような主人公じゃ作品に合いません。あくまでも等身大の人間として、間違いを犯したり、暴走したり、理論にそぐわないようなことをやってしまったりしています。

主人公の遠野叶多

──その場で嘘をついてしまって、あとでどツボにハマったり(笑)

宮尾:事を荒立てずに、平和に済ませたいタイプなんです。周囲とうまく折り合いをつけられる現代っ子のイメージで描きました。

女性の方だと、真奈はとにかく男性に好かれそうなタイプ。キサは女の子に好かれそうなタイプとして作りました。

叶多が思いを寄せていた、真奈

室町時代のキーキャラクター、キサ

──すごくわかります。真奈と真樹は、似せてデザインされなかったんですね。

宮尾:タレ目だけ共通にして、他はあえて逆パーツにしました。お父さんだけ共通で、後は全くの別人なので。性格も違うし、育ち方とか環境も似ているようで違うので、双子ではなく違うキャラとしてデザインしたんです。

真奈の違う世界線での姿、真樹

──モデルのいる人物はいましたか?

宮尾:ハル(山崎晴市)さんは前の会社の上司から名前とかもらいまして、外見は芸人の「ロッチ」の中岡創一さん。内面は私に近いですね。自分ならどうするかなって感覚で描いてました。ハルさんも私もオタクですし(笑)。

叶多を熱心にサポートする、ハルさん

──ハルさん怪しい風貌でしたけど、めちゃ良い人でしたね。

宮尾:私はそこの部分は似てません(笑)。ハルさんは30代半ばくらいなんですよ。真奈とは一回りくらいの年の差で婚約してます。

──編集さんから宮尾先生に何かオーダーした部分はありましたか?

担当編集:宮尾さんが新人賞で出していただいた作品はギャグ調で、笑いのセンスがすごくいいんです。だから『五佰年BOX』でもちょいちょい挟んでくれるようにお願いしました。それが潤滑油になっていて、いい魅力になっています。

ちょこっと入るギャグ要素が良い潤滑油に

──物語が重くなりすぎず、いいさじ加減でギャグが入ってました。

宮尾:ギャグ的な部分は自分の感覚に馴染んでいて、肩の力の抜けたところでキャラ同士の関係性を描くのは楽しいですね。

ギャグのやりとりから、キャラ達の関係値が見える



※ここからは重大なネタバレがあります。『五佰年BOX』4巻までをお読みになってからご覧いただくことを強く推奨します。

仏教色が強い理由は、生活に根ざした宗教だから

──フィクションで超常現象といえば、例えば『君の名は。』のような、巫女とか神道がモチーフとして使われることが多いように個人的に思っていました。でも『五佰年BOX』では、お寺やお坊さんなど、仏教が根底にあるように感じます。

宮尾:自分では意識したことがなくて、指摘されて気づきました。たぶん私の根底には、仏教の方が「生活に根付いている宗教」という印象が強いんだと思います。

生活地域によるのかもしれませんが、室町でも現代でも、神道よりは仏教のほうが生活のいろんなところに密着していると感じるんです。神道だと神秘主義っぽいイメージになります。仏教は土着の信仰として、民衆に根ざした生活を描くには合っているのかなって。

──ラストシーンで、叶多と真樹っぽい子がチラっと出てきたのも、仏教の輪廻転生なのかと邪推しまいました。

宮尾:私自身は輪廻転生は信じていません。でも仏教の世界観って面白いんです。三千世界みたいに無数の世界が存在するという思想は、パラレルワールドの平行世界に通じるところがあるなって。無意識のうちに影響しているかもしれませんね。

意外な事実!冒頭に出てくるお坊さんの正体、最初は……?

──冒頭とラストシーンがピタッと繋がるのが感動しました。あのラストは最初から決めていたんでしょうか?

宮尾:箱に対して、時の流れを匂わすようなスケール感の大きな要素として、あの冒頭にしました。描いた時は、あのお坊さんは叶多だったんですよね。

──えっ!そうだったんですか。

宮尾:でも連載していく中で、真樹がここまで物語に食い込んでくると思っていませんでした。真樹が物語の大事なポジションに位置してきたので変更したんです。読者の方には、「叶多だと思ったでしょ?」っていうフェイントにもなったんじゃないかなって(笑)。

──最初は叶多の予定だったということは、箱の中にタイムトリップする展開は始めから予定していたんですか?

宮尾:はい。箱に対しては、第三者的な視点で物語が始まるわけじゃないですか。叶多にとって箱はファンタジーで、自分の身には何も危険が起こらないという立場でした。しかし最終的には、自分もそこに身を置く羽目になるという流れにしたかったんです。力を行使する側から運命に振り回される側になるみたいな、立場の逆転は想定していました。

叶多も過去にタイムトリップしてしまい、立場は逆転する

──なるほど。じゃあ最初から、叶多の初恋は実らないことが決まっていたんですね……。

宮尾:そうですね、初恋は美しい思い出のままで、実らない方がいいです(笑)。

電子書籍のみで特別版『五佰年BOX(4.5)』が配信!

──Twitterでは5巻程度を想定していたとおっしゃってました。没エピソードはありますか?

宮尾室町時代に飛んでから叶多が潔癖症で苦労するシーンとか、室町時代の価値観の違いで苦しんだシーンも入れたかったですね。貞清とキサ、貞清と主馬、道成先輩といった人間関係も描きたかったです。

──そこで電子版でのみ、『五佰年BOX(4.5)〜Special Episode~』が配信されるんですよね。

『五佰年BOX(4.5)〜Special Episode~』書影

詳しくはこちらから

宮尾:表紙は叶多と真奈ですけど、どちらも登場しません

──しないんですか(笑)

宮尾宗近に拾われた後の真樹がどうなったのかを描いています。本当は本編に入れたかったところでした。

担当編集:紙の単行本はどうしてもページ数に縛られてしまうんです。電子だったら単話でも提供できるという、新しい試みに挑戦してみました。一話分のエピソードですけど、その分値段も安くしています。

宮尾先生もおっしゃっていたように、真樹は叶多に匹敵する主人公格なので、真樹のエピソードは必見です。どういう形で彼がお坊さんに至ったか、ぜひ読んでいただければと思います。

小学一年の時に読んだ『火の鳥』に衝撃を受けた

──ここからは宮尾先生ご自身について伺います。いつ頃からマンガ家を目指されたんでしょうか?

宮尾:小学校1年生の時には、将来の夢はマンガ家と言ってました。兄の影響で少年マンガばかり読んでいて、手塚治虫先生の『火の鳥』が子供ながらに衝撃を受けました。こんなのを描きたいなって。

──小学校低学年で『火の鳥』は、早熟でしたね。

宮尾:だから趣味が周りと全然合わなくて(笑)。中学高校の頃に好きだったのは『寄生獣』とか『カムイ外伝』とか、「もう神!」って興奮していたら、周りの人は「何それ」みたいな薄い反応で……。

──そこでも周囲とズレが生じていたと(笑)

宮尾:『火の鳥』『寄生獣』『カムイ外伝』など、哲学的な内容を含んだマンガが好きなんでしょうね。絵的には、安彦良和先生の絵が好きです。『ナムジ 大國主』って古代史のマンガを読んで「この人はすごいな」って感じてました。

──学生の頃から、マンガを描かれていたんですか?

宮尾:描いてましたけど賞には投稿してなくて、ノートマンガをひたすら描く暗い学生でした(笑)。それで社会人になってから投稿を始めました。最初にマガジンで賞はいただいたんですが、少年マンガ過ぎると思って青年誌へ転向しました。そこからコミティアで「イブニング」の出張編集部に持ち込みして、最初の担当さんと出会ったという経緯です。

──最近おすすめのマンガをおしえて下さい。

宮尾:ベタですけど『ゴールデンカムイ』いろんな要素が入っていて面白いです。あれも第1次世界大戦くらいって歴史モノの要素があって、アイヌの文化史的なものもあるし、ギャグも面白いです。

──女性にはきわどい下ネタも多いですが……。

宮尾:むしろ大好きです。大盛り上がりしてます(笑)。

気になる宮尾先生の次回作、構想は……?

──次回作の構想はありますか?

宮尾:やっぱりガチな歴史ものが描きたいですね。

担当編集:ハードルは高いのですが、アリです。ただ歴史マンガを描くのが好きな作家さんの傾向として、地味目の渋い武将を選びがちで……(笑)。メジャーな武将にしてほしいということはよくあります。

宮尾地味なのをやりたいです。

(一同笑)

担当編集:そこをどう派手に演出するかが勝負ですね(笑)。

宮尾「みんな知らないけど、こんなすごい人がいるんだよ!」って布教したい気持ちがあるんです。大学の専攻が中国史だったので、外国の歴史モノも描きたいですね。

──三国志の時代でしょうか?

宮尾:メジャーであればあるほど興味を無くすというか……。

──ガチで歴史好きなところが伝わってきます(笑)

宮尾:専攻は始皇帝だったんですけど、すでに『キングダム』がありますから、その前の戦国時代か、もっと後にするか。

──歴史モノは現代に比べて、絵を細かく描写するのが大変じゃないでしょうか?

宮尾:大変だとは思います。でも現代では分からないことが多い分、嘘がバレないといえばバレないので、自分の解釈で描ける部分もあります。

──確かに。次回作も楽しみにしています! それではメッセージをお願いします。

宮尾:まだデビューしたばかりで一作しかないですが、『五佰年BOX(4.5)~Special Episode~』や今後の作品も、是非よろしくお願いします!

──ありがとうございました。

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この記事を書いた人

かーずSP

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