2021.04.14
対人コミュニケーションの悩みが、お風呂に入ることでほぐれていく様を描いたコメディ作品!『お湯でほころぶ雪芽先輩』三簾真也【おすすめ漫画】
『お湯でほころぶ雪芽先輩』
近づきがたい雪の女王も、お風呂に入ればすっかりほころんだ笑顔
『ふろがーる!』『ふろラン』『ゆめぐりゆりめぐり』など、ウンチクネタを含んだ漫画作品として「入浴」は今一大ジャンルになりつつある。
「お風呂」という題材は誰もが必ず経験することであり、健康に直結するため知って損することがなく、旅行やショッピングにも話題を広げることが出来る。健康的なお色気も絵になるのだから、題材としては非常に魅力的だ。
今回紹介する『お湯でほころぶ雪芽先輩』は、対人コミュニケーションの悩みをお風呂を通じて描いた作品だ。
一切笑わず仕事をバリバリこなす、言葉も眼光も厳しい雪芽湯紀(ゆきめ・ゆき)。職場では「雪の女王」と呼ばれ、恐れられている存在だ。
教育係である雪芽の元で働く新人、温美(ぬくみ)めぐりは雪芽に迷惑をかけているのではないかと常におっかなびっくり。仲良くなろうとしてもスキがなく、冷たい視線に震えるばかり。ため息をつきながら温美が帰り道にたまたま寄ったのは、銭湯。
ワクワクしていざ入浴しようとしたところ、偶然にも雪芽がいることに気づく。そこにいた雪芽は、一度湯に浸かると普段の冷酷な目とまるで異なる柔和な表情になっていた。
出来る女ながらもコミュニケーション不全な雪芽先輩が、裸の付き合いの中で心をひらいていく様子は、見ていてとても幸せになれる。まさに心を癒やしてくれるお風呂の効用そのものだ。普段冷淡そうな雪芽先輩がお風呂に入ると、一気に無垢な少女のように自身の弱みを恥じらい、湯を楽しんでウキウキした様子を見せ、温美が銭湯仲間になってくれたことでニコニコ笑顔になる。顔も身体も心も、強張ったあらゆるものから解放されたかのようだ。
キャラクターの本音が見える瞬間というのは魅力的なものだ。お風呂でしおらしくなる雪芽は、とても寂しがり屋。普段冷たく見えるのも、人と親しくするのが苦手なだけ。
2人でお風呂に入る回数が増えるごとに関係が育っていく様子は、見ていてこちらの顔もほころぶ。温美というかけがえのない友人ができたことで、彼女がちょっとずつ積極性を増し、人との距離感を自分からなんとかしようと成長していく様が愛しい。
よく「裸の付き合い」が人の距離を縮めると言うが、これは隠すものがなく素が見えるがゆえに生まれる信頼関係のことを指すのだろう。雪芽はお湯に浸かることで、弱い自分が全て出てしまう。本人はそれを恥じているが、温美のみならず読者も、弱さに正直な彼女を魅力に感じるはずだ。
もちろん雪芽が正直になれたのは、お風呂のせいだけじゃない。温美が彼女に対して、仲良くなりたいという気持ちをまっすぐぶつけてきてくれるからだ。ふたりがプールのような浴室から部屋の狭い湯船まで、お風呂に一緒に入って談笑するシーンが何度も出てくる。心をさらけ出した時に受け入れてくれる友は、信頼できる宝物だ。雪芽先輩はゆっくりと少しずつ、宝物を増やし始めている。
冷凍サウナ、足湯カフェ、黒湯炭酸泉など、実際に都内にある変わり種の銭湯が次々登場。魚を見ながら入れるお風呂など、軽い旅行気分で訪れたくなる。正しい入浴法なども語られており、お風呂の入り方の知識本としても役に立つ作品だ。
©三簾真也/フレックスコミックス