2021.04.13
情熱の炎を“再点火”した中学教師・日高小春の新たな戦いから目が離せない!『ハイスコアガールDASH』押切蓮介【おすすめ漫画】
『ハイスコアガールDASH』
前作『ハイスコアガール』で主人公・矢口春雄(ハルオ)に片想いし、ゲームに恋に、獅子奮迅の戦いを繰り広げた日高小春。この作品の読者の中には、彼女の行く末を見届けるために読んでいた方も多かったのではないでしょうか? 筆者もそのひとり。
その続編である『ハイスコアガールDASH』がそんな小春を主人公とした作品になるというのですから、読まないという選択肢はありませんでした。
本作では、作中時間にして前作から約10年という歳月が経過し、小春は28歳の中学教師。ハルオと青春を共にした母校で、教壇に立っています。小春が教師になった理由はいまのところ明かされていませんが、この設定を読めば前作の読者はこう思うかもしれません。「まだ彼女はあの日々に囚われているのかもしれない」と。
読み進めていくと、かつての苛烈な印象は鳴りを潜め、小春はすっかり「大人」で模範的な教師になっていることが分かります。「大人」としての正論しか言わない“小春先生”に、壁を感じてしまっている生徒たち。担当クラスの問題児たちの中に、そんな正論に耳を貸す者はいません。
思えば小春は、元はといえば大人しげな少女でした。そんな彼女が「何かに本気で向き合う」きっかけになったのがハルオへの恋であり、そのために向き合うことになったのがゲームだったはず。
そんな小春の想いは結局のところ、より純粋な「ゲームが好き」という想いで繋がっていた、ハルオと晶のあいだに割って入ることができるものではありませんでした。もちろん小春自身もどんどんゲームそのものにものめり込んでいきましたが、彼女にとってアーケード筐体のコントローラーは、あくまで「大切なもの(ハルオへの恋心)を貫き通すため」に握るものだったように思います。
『ハイスコアガールDASH』の第1巻は、終盤まで重苦しい展開が続きます。自分のあり方に悩みながらも、様々な自意識に縛られ、教師としての模範的な言葉しか生徒に伝えられない小春。次々と問題を起こす生徒たちは、劣悪な家庭環境などの根深い問題を抱えていることも明らかに。
生徒たちを助けたい。けれど、いまの自分にできることは何もないのかもしれない……。学校にPSPを持ってきた生徒への説教で、小春が思わずPSPを「こんなもの」と言ってしまい、そんな自分に心の中で悪態をつくシーンなどは、前作のファンほど大きなショックを受けるはず。
しかしそれらの展開はすべて、小春が再び心に激しい炎を抱くため、必要な布石だったのです。今度は「教え子を守るため」、再び小春はゲームへと向き合います。そしてそれは小春自身がもう一度「誇りを持って生きるため」の第一歩でもあるのでしょう。
いつでも「大切な何かのため」に戦ってきた小春。そうした想いからゲームと向き合っても、純粋な「ゲームが好き」という気持ちには勝てないものなのでしょうか? 前作の恋の決着はそう結論づけ得るものでしたが、でも、きっとそう言い切れるものではないと思うんです。
ひとつの恋に敗れたとしても、全霊をかけた努力がそのときは報われなかったとしても、人生は続いていく。あの日々が小春の人生にもたらしたものは、何だったのか? それは情熱の炎を“再点火”した小春の、新たな戦いの日々から明らかになって行くのでしょう。
©押切蓮介/スクウェア・エニックス