2021.04.17
あらゆるメディアのタイトルの魅力について「だけ」語り合う、異色のコメディ作品!『タイトルが決まらない(仮) 』ウエハラシホ, 藤野ハルマ【おすすめ漫画】
『タイトルが決まらない(仮) 』
本日は、マッグガーデンのWeb漫画配信サイト「マグコミ」で連載中の『タイトルが決まらない(仮) 』を紹介したい。
もしも貴方が「最近おススメの〇〇は何ですか?」と訊かれたとしよう。映画、アニメ、小説、ゲーム、音楽。メディアはなんでもいい。
その時、チョイスする基準はどこに置くだろうか。尋ねてきた相手の好み、作者やスタッフの知名度、ストーリーや映像構成のうまさ、俳優の実力、言語化しづらいノリと勢いのよさ……。時と場合によってさまざまだろう。
だが、本作の主人公である女子高生・田口さんが作品をとりあげる理由はどれでもない。
「作品で大切なのはそう、タイトルです! 」
タイトルに魅力があるかどうか。それ自体がある作品を評価する唯一絶対の指標なのである。
田口さんは学校であらゆるメディアのタイトルについて”だけ”仲間と語り合う部活・総合メディア文化研究部をこしらえるほど筋金入りのタイトルフェチである。ひとつのタイトルをとりあげる時、彼女は作品内容に頓着しない。というか自分では中身を知らなくても、タイトルがよければがんがんプッシュしてくる。
けれど、いいかげんというなかれ。タイトルだけといっても注目すべき要素は数多い。題名の響き、文字ヅラの趣、文量が長い・短いで生じる機微などなど。だから意外というべきか当然というべきか、タイトルという題材一点集中でもネタ切れしないのだ。
実際、リアルの私たちにとってもタイトルそのものをめぐる話題は事欠かない。
日常系4コママンガの長いジャンル史の一部ともいえる、ひらがなタイトルの人気作たち。
いわゆる“なろう系”小説における、説明性の高いタイトルについての議論。
エンタメ映画における、ヒット作に便乗したパロディ題名のバカバカしさ。
新書分野における「〇〇が最も恐れた男」「知の巨人〇〇」といったベタベタな題名フォーマット。
音楽ならばジョン・ケージ「4分33秒」のような、表現の究極を突いたコンセプトあふれる切り口。
あるいは、2016年の伝記映画『ドリーム』邦題をめぐる騒動なんてのを覚えておいでのかたもおられるだろう。当初、配給会社が『ドリーム 私たちのアポロ計画』と題して日本公開しようとするも劇中で描かれるのがアポロではなくマーキュリー計画であるため「分かりやすさを優先して作品の内容をゆがめるな」と批判が巻き起こり、公開時には副題が削られた件だ。
タイトルというのはそれくらい、いざとなったら人の心をかきみだす重要なポイントなのである。
いったい、タイトルとは何だろうか?
それは作品の看板であり、送り手から受け手への最初のコミュニケーションだ。そして創作者あるいは編集者がゴッドファーザーとなり作品に与える祝福の洗礼名だ。
あるいは、作品を最後まで追うとようやく本当の意味が分かるような、ひとつの技芸でもありうる。
完全にビジネス的判断で貼りつけられた無機質な商品ラベルということもあるし、ネット上で配信サイトが隆盛しているいまは機械翻訳で適当につけられた事故のごときタイトルも生まれうる。本当に、さまざまなのだ。
「作品の数だけタイトルがある! タイトルとは人間の誕生と同じくして選ばれしモノのみが残ったたっとき命! それはまさに人類の英知!」
『タイトルが決まらない(仮) 』の中で、田口さんはタイトルを礼讃する言葉の数々を吐きまくる。それらは理屈がかったマニアの強弁にも思えるが、同時にたしかな哲学と美学も満ち満ちている。
この漫画をいっぺん読むと、今後の人生で目にふれる無数のタイトルひとつひとつに対して無関心ではいられなくなることうけあいだ。
©ウエハラシホ,藤野ハルマ/マッグガーデン