2021.04.22
「文春オンライン」で累計4300万PVというモンスタークラスの数字を叩き出した、ひとりのゲイの青年のノンフィクションエッセイの漫画化!『僕が夫に出会うまで』つきづきよし, 七崎 良輔【おすすめ漫画】
『僕が夫に出会うまで』
この作品はいつもレビューしているファンタジー&フィクションなBLではなく、ノンフィクションの原作がある、ひとりのゲイの青年のお話です。
「文春オンライン」で累計4300万PVというモンスタークラスの数字を叩き出した、ノンフィクションエッセイの漫画化ですので、注目度も高かったのではないでしょうか。
漫画を担当したのはBL漫画界で屈指の人気を誇る、つきづきよし先生。このタッグで心が躍らないなどということがあるでしょうか、いやない!
ゲイとして生まれた青年・七崎が、幼少期から自分に覚えていた違和感、周りの同級生とはちがうとはっきり自覚した後に訪れた絶望。
男なのに男が好きだと自分がゲイだと自認した後も、恋をした友人に告白する勇気などなく、友人関係を続けながら、「七崎が女だったら、俺たち付き合ってたよな」=男のおまえとは付き合えない、と告白前に振られてしまったり、出会い系サイトで出会った冴えないゲイのおじさんと、流されるまま初めてを経験してしまったり、好きだった「友人」と一時期同居生活をすることになったり。
女友達の恋バナを聞きながら、ついうっかりカミングアウトして、生まれて初めて自分の報われなさすぎる恋に共感してもらえたりと、日常の中にある葛藤と喜び、悲しみが丁寧に積み重ねられていきます。派手な演出はなくてもひとつひとつのエピソードが胸に響いてくる感じです。
誰とも心をかわさず、いつか一人ぼっちで死ぬんだと思っていた七崎は、成長していくつもの恋を経験し、失恋を乗り越え、結婚してゲイとして家庭を築きたいと思うようになります。
いつか運命の人と出会って、その人と人生を共にする。その願いを叶えられる相手とは出会ってすぐに付き合ったわけではないのですが、お互いに相手がいても不思議と縁が途切れなくて、最終的に考え方の根っこの部分が似ていたその人が、七崎の夫になりました。役所では婚姻届けは受理してもらえませんでしたが、未来に望みを持てる対応でしたし、きちんと結婚式も挙げました。
子ども時代の絶望や、母親の拒絶反応、手痛い失恋など、フィクションでもかなり堪える試練を乗り越えた先に得たパートナーです。もちろんこの先も、一筋縄ではいかないことも起きてくるのだと思いますが、彼らならきっと一緒に頑張れるのだろうなと思える終わり方でした。
濡れ場シーンはほぼないので、普段BLは読まないよという方にも抵抗感少なく手に取っていただけると思います。
肌色シーンはなくても、BL的にもしっかり読ませてくる作品です。ひとつの恋の形の物語として、いろんな人に読んでもらえたら嬉しいなと思える本でした。
©つきづきよし,七崎良輔/文藝春秋