2021.04.23
犬猿の仲なのに恋仲に!?ウソの「新婚生活」で始まる、同居ラブストーリー!『この恋、茶番につき!?』山中梅鉢【おすすめ漫画】
『この恋、茶番につき!?』
山中梅鉢先生による『この恋、茶番につき!?』の第1巻が発売されました。
主人公は28歳・茶子。スポーツインストラクターとして働いていたけれど、婚約破棄から元婚約者がストーカーと化したことで、仕事をやめ、逃げるように家を引き払い、実家へと戻ります。実家は茶農家。両親は他界し、後を継いだ兄の手伝いをしようと気楽に実家の敷居を跨ぐと、そこに兄の姿は無く、見知らぬ幼女と毒舌無作法な男が暮らしていて……!?
実家に見知らぬ男が
実家に帰ったら見知らぬ男が住んでるってめちゃ怖いと思うんですけど、恋愛漫画においてはチャンスであるほかありません。まあ当事者からしたらパニックでしかないんですけど。
まず行方不明の兄はというと、茶農家からは手を引き、離れで物書きの仕事に専念。兄に代わって、住み込みで茶畑の面倒を見ているのが、この謎の男・一心というわけ。そして謎の幼女・ふたばは、兄の娘で、妻とは死別と、なかなかに複雑な家庭環境。
そんなところに事情を知らない茶子がのこのことやってきたものだから、一心からしたら「大変な状況の実家を放っておいて今さら何しに来たんだ」と、冷たく当たるというわけ。
ただ茶子も、他に行く当てもなく、失うものもの何もない状況ですから、そんな当たりの強い一心に対して果敢にも食い下がって同居生活を開始。互いにぶつかり合いながらも、姪のふたばが間を取り持つようにして、関係は続いていきます。
犬猿の仲なのに恋仲に!?
単純に同居するだけなら何も起こらないというか、仮に距離が近づくにしてもとても時間がかかるのが常。舞台は茶畑ですから、育成から収穫まで、ワンシーズンはかかることでしょう。それでも良いのですが、それだと展開としては退屈ですし、絵面もほのぼのしすぎる……というわけで、早々にストーカーの元婚約者をぶち込んできます。
狂気のストーカーを追い払うため、茶子は近くにいた一心と「結婚した」と嘘をつき、見事撃退。しかし安心したのも束の間、あろうことかそのことをご近所さんに聞かれており、一気に祝福ムードに。否定することもできず、そのまま二人は偽りの夫婦として過ごすことになります。関係性で言えば最悪なのですが、表向きは婚約者として過ごさなくてはいけないという状況が、物語を面白おかしく動かしていきます。
無骨不器用なヒーロー
一心は茶子に対しての当たりはきついものの、根っからの悪者というわけではなく、感情表現も人付き合いも下手な不器用な男という感じ。
お茶に対する気持ちは人一倍強く、昼夜問わず畑に出向いては、状態を確認するような熱心さを持ち合わせています。それぐらいお茶に対して真剣で必死であるがゆえに、軽い気持ちで実家に戻り「お手伝いをする」という茶子を容認できないという。非常にガードが堅そうではあるのですが、他に女性が寄り付きそうにもなく、きっかけさえあれば心掴めそうですし、ひとたび懐に入ってしまえば、一途に愛してくれそうな誠実さを感じる男、いや漢であります。
茶子については現時点でこれといった魅力も無いのですが(失礼)、まあ失業して家を引き払って、逃げた先でまでストーカーに追いかけられるという状況ではなかなか魅力を発揮するのも難しいところ。彼女自身の良さ=一心の相手として相応しいキャラクターであるというエピソードが欲しいところですが、このあたりはお茶づくりなどの共同作業などを通じて描き出されていくことでしょう。
絵面は地味ですが…
お茶農家というなかなか渋い舞台設定、個人的には結構好きなのですが、第一次産業って女性受けはどうなんでしょう。どうしても絵面は地味になりがちなのですが、一応イケメンの幼なじみを投入したりと、色々な工夫が見られるところも強調しておきたいです。
キャラクターもきちんと立っており、絵柄もこなれており、ストーリーもきっちり展開、派手さはないものの、実に完成度の高い一作で、漫画の出来だけで言えば全然茶番じゃないっていう。ものっすごく読みやすいです。今後、この偽装結婚がこじれにこじれるとさらに面白くなりそうで、2巻以降このあたりを楽しみにしたいところです。
©山中梅鉢/講談社