2021.05.23

アクアリウム飼育上のおサカナ生態系あるあるを織り交ぜながら展開される、ゆるくシュールなお魚擬人化コメディ! 『メダカくん、さよなら。』こうのとり昇【おすすめ漫画】

『メダカくん、さよなら。』

きょうは久々に完結済みの作品を紹介したい。タイトルは『メダカくん、さよなら。』。KADOKAWA「ヤングエースUP」で2016年から2017年にかけて連載配信されたWeb漫画だ。

内容をざっくりまとめれば、擬人化コメディにあたる……いやコメディと言っていいのかどうか……。まあ、それは後述しよう。

本作の舞台は、とある個人宅に置かれた水生生物の飼育設備、つまり家庭用アクアリウムの内部である。魚やヌマエビ、タニシといった多様な生物が共存する箱庭的な環境だが、その中でふとした拍子に喰うか喰われるかの生存競争も起こるさまがヒトの姿に置き換えてつづられる。

学園もののような光景もあれば洋館ミステリ風のシチュエーションなんてのもあり、それらの合間にアクアリウム飼育上のおサカナ生態系あるあるを織り交ぜていく形になっている。

主人公は、極めてか弱いがどこか図太い性格のメダカくん。生き餌として他の水槽で大きな魚に食べ尽くされたメダカたちの生き残りで、飼い主の気まぐれから複数種類の生物を飼育する雑居水槽へ一匹だけ放り込まれたハードモードな境遇の男の子だ。

第1話冒頭、そんな彼が何を考えているやらわからない(というか何も考えていない)瞳孔がかっぴらいた目で登場して、即座に「親兄姉みんな死んだぞ 今日からぼくはひとりぼっちっす!」とパンチのきいた第一声を放つ姿が本作のノリを如実にあらわしている。

肩の力が抜けた軽やかな線で造形されたキャラクターは皆、その絵柄に見合った淡泊さで生死についてあっさりしている。

生きのびたいというポジティブな欲はあるし、喜怒哀楽はあるし、その場その場での共同作業や連帯感のようなものはあるのだが、同時にいつもどこかドライな空気が流れている。誰かの命を奪ったり同族の命が奪われたり、身近に付き合っていた誰かがうっかり死んでいなくなっても、まあそれはそれとして、という塩梅だ。

けれど、それはけっして冷酷というわけではない。本当にただただ、そういうものなのだ。強きも弱きもみな等しく、おたがいに捕食対象となる容赦ない公平性。むやみに情緒にすり寄らない、突き放した軽さはへたに重々しいドラマティックな表現よりもよほどシビアだし、誠実ですらある。

と、そこで本作が生き物を擬人化している仕立てが効いてくる。メダカくんたちのドライな死生観が人間の姿でふるまわれることにより、よけいに行動原理が異様に思えて摩擦感を誘われる……のだが、読み進めて慣れてくるとむしろ彼らのようにあっさりしていられない人間のほうが変なのでは? とひっくり返った疑問が導かれてくる。

命に対する態度の“おかしさ”が、人間である読者とおサカナである登場人物の間で行ったり来たりして、結局何がおかしいのか分からなくなる困惑の味わい。倫理のキワに立って、突き詰めれば後はもう悩みようもなくフっと一笑するしかないような境地がそこにはある。

そういう意味で、この漫画についてはやはり“コメディ”と呼んでおくとしよう。

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miyamo

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