2021.06.01
アイドルファンなら誰もが夢見るシチュエーション! けれどそこには怪しい影が……?『推しが隣で授業に集中できない!』筒井テツ, 菅原こゆび【おすすめ漫画】
『推しが隣で授業に集中できない!』
今回ご紹介するのは、「推してるアイドルと同じクラスで、しかも隣の席になっちゃったら……?」という、アイドルファンなら夢にまで見たシチュエーションを描いた作品。なのですが、そんな誰もが羨む毎日を過ごす当事者には、大変な苦労が待ち受けていて……?
主人公は高校生になったばかりの女の子・真中咲子。咲子はまだちょっとマイナー気味なアイドルユニット“春色サンシャイン”の大ファン。中でも推しメンは、“ちろちゃん”こと田中千尋。同い年ということもあって、頑張る彼女に強い憧れを抱いています。
「同じシャイナー(春色サンシャインのファンの通称)の人がいたら仲良くなれたら嬉しい」……。咲子の高校生活への、そんなささやかな幸せへの期待は、いきなり打ち砕かれることに。なんと教室の隣の席に座っていたのは、大好きなちろちゃん(本名:田中千尋)だったのです。
刺激的すぎる日常に、咲子は動揺しまくり。自分がファンであることを千尋に打ち明けて良いのか悩んだり、うっかり握手を求めてしまったり──それでも少しずつ友達として距離を縮めていくふたり。しかしそんな咲子に、怪しい影が忍び寄ります。この学校には千尋の大ファンがもうひとりいて、咲子へと暗い感情を向けていたのでした。
第1話はドロドロした嫌~な展開になりそうなところで終わる本作。しかしこの予想は、良い意味で大きく外れます。
物語を追っているうちに気付かされるのは、主人公である咲子が、自分のことを顧みつつも、周囲の人の気持ちを慮ろうとする、対人関係における優れたバランス感覚を持っていること。ちょっと嫌な相手に対しても、「自分が同じ立場だったら」と想像力を働かせて手を差し伸べたりできるあたりに、とても好感が持てます。
千尋との会話の中で話題を切り出そうとしたとき、「これはファンだから聞きたいこと? それともクラスメイトなら普通に聞くこと?」と葛藤したりできるあたりにも、自分の欲望を相手に押し付けまいとする優しさが現れているように思います。
一方で、そんな咲子に“推される”側である千尋も、本当に優しく、真っ直ぐで裏表のない女の子。学生としての自分とアイドルとしての自分を切り分けたりすることなく、咲子から“推し”としての大好きの気持ちも素直に受け止めながら、友達としても仲良くなっていきたいと歩み寄ります。
そんなふたりの真っ直ぐな向き合い方に、“もうひとりのファン”も少しずつ変わりはじめているような……そうでもないような……?
同じものを好きな者同士、もしかしたら分かり合えるときが来るかも。現実はなかなかそう上手くはいかないかもしれませんが、そんな希望も抱きたくなる、優しさに満ちた作品となっています。6月9日に発売予定の第2巻も楽しみです。
©筒井テツ, 菅原こゆび/講談社