2021.06.13
言葉をしゃべり、たまに二足で立ち上がったりグータラと寝転がる猫の毎日をつづっていく半擬人化の日常コメディ!『猫田びより』 久楽【おすすめ漫画】
『猫田びより』
ここ7年の間に数々の話題作を送り出し、本誌をおびやかすほどの存在感を誇る少年ジャンプ系列のWeb媒体といえば。そう、集英社の「ジャンプ+」だ。
本日は、そのジャンプ+を初期から支えている作品を紹介したい。
初期というと『カラダ探し』? 『とんかつDJアゲ太郎』? 少し下って『ファイアパンチ』かな? いやいや。初期「から支えている」だから、いまだ現役で連載中の漫画である。
タイトルは『猫田びより』。
第1話の配信は2014年9月22日。ジャンプ+が創刊された際の25作品のひとつで、文字通りの最古参! 厳密にいうとジャンプ+の前身である漫画アプリ「ジャンプLIVE」で2013年12月から連載されていた『はしやすめに猫田さん』の移籍なので、古参という言葉でもおさまらない。
内容は、いたってシンプル。
とある家族に飼われている一匹の猫が、言葉をしゃべり、たまに二足で立ち上がり、そしてグータラと寝転がる毎日をつづっていく半擬人化の日常コメディだ。
お掃除している飼い主の手伝いをしようかなあ、でもかえって邪魔になるかもなあ、と色々考えるけど考えっぱなしで結局は寝る猫田さん。
人間関係の悩みを相談されて静かにあいづちを打つも、返す答えが「寝て忘れなよ」だけで具体的な役には立たない猫田さん。
自分がペットなのに「ペット飼いたい〜」とハムスターをほしがり「本能がうずいても食べちゃったりしないから〜」とこわい一言を付け足す猫田さん。
お風呂に入れられるのを嫌って押し入れに隠れ、見つかりそうになると咄嗟に「ニャー」と鳴いて猫がいるふりでやりすごそうとする猫田さん(実際に猫だよ!)……etc.
言葉は通じれどあくまで猫の習性のままヒトの生活に参加するシチュエーションと、おまえ自分が猫なのを忘れてないか!? と読者のツッコミを誘うシチュエーション。
その両方が入り混じるため、「猫って人間と違ってこういうところあるよな〜」とキャラを向こう側に置く観察的な風情と「こういうことって身に覚えあるな〜」と人間が丸重ねになる共感とが同居する不思議な趣を備えている。
それを楽しむにあたり注目したいのは、猫田さんのビジュアル面のなんともいえないユルさだ。
白猫なので全身白抜きに輪郭線のみ描かれ、目・鼻・口は棒線をさっと引いただけ。そんな“白い”デザインはキャラクターの存在そのものに多くの余白を与え、猫を猫のまま、それでいてヒトのようでもあるという(本来なら矛盾する)性質をまとめて読者の視覚に許容させる。
猫田さんのユルい余白感はまるで毎日食べても飽きない料理のように、何もかもがちょうどいい。ゆるゆるとどこまでも追いかけることができて、どこまでも疲れない・飽きない。旧タイトルで「はしやすめに」とついていたのはダテじゃない読み味なのだ。
1話あたり1ネタ8コマを2本ずつ、それを7年間毎日更新して2400話台(!)に達した本作の持続性は、そういうちょうどよさに根ざしているのだろう。
そうした作品がジャンプ+で毎日連載されている……この意義は大きい。本作から他のジャンプ+配信マンガに読者の手がのびたり、逆に他作品の読者がそれこそ箸休めを求めたさいの受け皿になる可能性をずっと生み続けていることを意味するからだ。
先に「ジャンプ+を初期から支えている」作品と前フリしたのは、そういう次第である。
©久楽/集英社