2018.03.04

【日替わりレビュー:日曜日】『辺獄のシュヴェスタ』竹良実

『辺獄のシュヴェスタ』

(今日は月曜日担当・アキミさんが、作品へのアツい思いを伝えるべく出張でお届け!)

舞台は中世ヨーロッパ。魔女狩りが横行する時代に、親を殺された少女たちが命をかけて闘う物語です。

主人公のエラは、親に売られそうになったところをギリギリで逃げ出し、薬師のような仕事をしている女性に養い子として引き取られます。そのまま平和に暮らせればよかったのですが、エラの養い親は魔女狩りに遭い、あろうことかエラの目の前で殺されてしまいます。
保護者を失ったエラは、魔女狩りで親を失った子供達が集められている修道院に送られますが、そこには魔女狩りを主導している総長・エーデルガルトがいます。エラはこの分水嶺と呼ばれる修道院で、この総長を復讐のために殺すことだけを目標に生きはじめます。

とにかく公式のアオリが「修道院暗黒活劇」だし、主人公を表す表現が「復讐の奴隷」というダークネスっぷりです。
修道院の環境はとにかく過酷で、少しでも叛意を悟られれば殺されるし、聖書の解釈次第でちょっとしたミスでも斧で腕を切り落とされたりします。食事には判断力を鈍らせる麻薬系の薬がデフォルトで混ぜられているし、定期的に試しという名の振るいに掛けられ、脱落するとこれまた殺されるか、人体実験の餌食です。

復讐どころか、翌日五体満足で目覚めることがハードミッションな世界ですが、そんな場所でもエラは絶対に諦めないし考えることも止めません。修道院に叛逆する仲間と共に地獄のような日常を生き延びていきます。ただ復讐のためだけに生き抜くつもりが、出会った仲間たちとの連帯や友情も生まれ、苦しいだけではない時間もあります。しかしどんなに仲間に恵まれようと、エラの目標は決してブレません

このエラの揺るがない絶対の意志が、暗くて熱くて重くて、たまらない引力を持っているのです。どうしようもなく魅せられるし、彼女から目が離せません。生き残ること自体が文字通りの闘いという状況下で、自分の命ごと燃やし尽くす勢いで目標に向かって走り続けるエネルギーの凄まじさは、全巻を通して痛いほど紙面から伝わってきます。

そしてエラが養い親の仇として命を狙うエーデルガルトは、己の信じる正義のために苛烈なまでの剣をふるい続けています。彼女は自分が正しいと確信しているし、彼女を信じて助けている周りの人間もまた、自分たちの正義を疑いません。

自分が正義ではないと知りながらなお、復讐者としてただ己を納得させる為だけに親の敵である一人の女を殺そうと定め、誰の許しも救いも求めないエラと、自分の正義を一点の曇りもなく信じて多くの命を奪いながら理想に向かって闘うエーデルガルト。
二人の熱量は等しく釣りあう天秤のようでいて、ベクトルは全く逆の方向を向いています。

最後に勝つのはどちらなのか。
エラは復讐を遂げた後、自分が生き残れるとはこれっぽっちも信じていません。
それでも、彼女の仲間たちは彼女を死なせまいと奮闘します。

こんなに重く濃厚で救いのない物語で、爽やかな読後感など一切期待していなかったのですが……意外にもこのラストでもって、自信を持って人にまとめ読みをお勧めできる作品となりました。

この6冊、まとめて一気に読める人が羨ましくてたまりません。

試し読みはコチラ!

この記事を書いた人

アキミ

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