2021.07.04

バットマンが赤ちゃんになっちゃった…!?彼を正義のスーパーヒーローに育て上げるためにジョーカーが奮闘する育児日常漫画!『ワンオペJOKER』 宮川サトシ, 後藤慶介, DCコミックス【おすすめ漫画】

『ワンオペJOKER』

「バットマンが赤ちゃんになっちゃった!」

はい、それでジョーカーが赤ちゃんの面倒を見ることになったんですね。………いやいや、なんでそうなるの!?

と、いきなり脳の情報処理をぶっちぎるシチュエーションで読者をぐいっとつかみにかかる漫画『ワンオペJOKER』の単行本が2021年6月23日に発売を迎えたので紹介しよう。

「週刊モーニング」連載作だが講談社のマンガ雑誌購読サービス「コミックDAYS」で配信もされているため、いちおうWeb漫画紹介枠の本日とりあげるのをアリとさせていただきたい。すみません、どうしてもレビューしたかったもので……。

さて、バットマンとジョーカーである。
米国のDCコミックス社が誇る歴史的大人気ヒーローのひとり、バットマン。大富豪ブルース・ウェインがコウモリ風のコスチュームで正体を隠し、原則として犯罪者を殺さず捕縛する自警活動をおこなうさいのヒーロー名だ。

一方、自らの正義を掲げて戦うバットマンの理念を台無しにすべく数々のいやがらせをおこなう敵がジョーカーだ。化学物質の溶液のなかに落ちて髪や皮膚の色、顔面に異変が起きた独特な外見の犯罪者。

陽気なふるまいで残忍な凶行に走るさまから呼ばれる異名は「犯罪界の道化王子」「虐殺する宮廷道化師」。主人公たるヒーローと紙一重で裏表の対極。永遠に勝てないが永久に負けない究極のアンチテーゼ。アンパンマンに対するばいきんまんである(?)

そんな悪党を赤ちゃんのお世話に励む育親ポジションにする漫画だというのだから、当然いろんな疑問が渦をまく。

 ・そもそもバットマンが、なぜ赤ちゃんになったのか?
 ・何のためにジョーカーが赤ちゃんになったバットマンを育てるのか?
 ・超のつく犯罪者であるジョーカーがまともに育児をするのか?
 ・手下や恋人もいるジョーカーが、なぜワンオペで育児しなくてはいけないのか?

『ワンオペJOKER』がおもしろいのは、上記の疑問すべてにあっさりと、しかも「なるほど」と思える答えを用意してあるところ。
配信サイトの試し読みで読める範囲でわかるので書いてしまうが、つまりこういうことだ。

まず、バットマンとジョーカーがいつものように追いつ追われつの激闘を繰り広げていた。そこでバットマンが、かつてのジョーカーのように化学物質タンクへ転落。その結果、心身が完全な赤ちゃんに若返りしてしまう

困ったのはジョーカーのほうだ。彼はバットマンの正義を否定することに執念を燃やしている。だから、否定する対象としてまずバットマンがちゃんと存在する必要があるのだ。じゃあ仕方ない、育てるしかないな。ヒーローに成長できるよう健康に気を付けてやって、情操教育も施さなきゃ。ただし究極の悪党であるジョーカーは誰も信用していない。だから誰にも頼らず自分ひとりの手で育てないと……。

かくしてワンオペ育児をおこなうジョーカーという状況が成立するわけだ。いやあ、これは本当になるほど感がすごい。

キャラクターを二次的に展開するさい根幹を崩してギャグに走るのは簡単だが、本作の場合は元のキャラをしっかり保ったままシチュエーションのみ剛腕で攻めることに成功している。上手い。

その上で描かれる本題は、赤ちゃんの面倒を見る上であるあるなトラブルの数々にジョーカーが右往左往する光景である。そこで驚くほどまっとうに育児日常漫画をやっているギャップがおかしくもあり、しみじみともする。

ひんぱんなミルクやり、オムツ替えの忙しさ。夜泣きをあやすための気力体力の消耗。ベビーカーを押して電車に乗る親を邪魔ものあつかいする社会の風潮に感じるストレス。保育園に入るまでの高いハードル……etc. いやほんと、大変ですわな。

ここで注意したいのは、本作のコメディ性の切り口がけっして「ジョーカーほどの男が”こんなこと”で苦労するおかしさ」ではないところだ。「ジョーカーほどの男だろうが”当然これほどまで”苦労してしまう」、それが育児だ……というペーソスこそが肝なのだ。

リアルにある育児の諸問題がアメリカのヒーローコミック世界の超悪党と日本の漫画読者を接続する、この趣向。
本当によく思いついて、しかもよくここまでしっかり漫画の形にできたものだと感心しきりである。

この記事を書いた人

miyamo

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