2021.07.07
「好き」に性別も血縁も関係ないっ! 禁断、だけど見ていてド安心な母と娘のゆるふわ恋愛模様!『ゆるおやこ』中村たいやき【おすすめ漫画】
『ゆるおやこ』
禁断、だけど見ていてド安心な母と娘のゆるふわ恋愛模様
学生百合、社会人百合、おねロリ、姉妹……百合・GLのジャンルはどんどん幅を広げ、表現も自由になってきた昨今、それでもまだ表立っては開拓されきっていないジャンルがある。それが母娘百合だ。
『ゆるおやこ』はその母娘百合に果敢に切り込んでいく作品。「「好き」に性別も血縁も関係ないっ!!」というキャッチコピーの元、仲良し母娘を越えた、でも恋愛まで至っていないまさに「百合」という関係を見せてくれる作品だ。
花村祐希(はなむら・ゆうき)は中学3年生の15歳。三大欲求大爆発中の元気いっぱいな女の子。彼女が恋をしているのは、お母さんの花村清香(はなむら・さやか)。エリート街道をひた走るやり手の社会人。クズ人間の父親と別れてからは、二人暮らし。
これがある意味問題だった。夫と離れてフリーになった母親の清香に対して、激しい恋愛感情を抱く祐希は猛アタックを開始。ベッドに母を押し倒す、耳元で愛をささやく、色んな所にキスをする、テレワーク中に顔を寄せ抱きついてくる。
あまりに行き過ぎるスキンシップと愛の言葉に戸惑いまくる清香。もっともひとつひとつの行動だけ取れば「母娘の愛情」と取れなくもないが、ところどころピンポイントに攻めのテクニックを身に着けた祐希の行動にドキドキさせられてしまうから困る。
娘の気持ちは恋愛。母の気持ちは……なんだろう? 揺れ動く母の気持ちをよそに、今日も祐希の本能のままのアタックは続く。
実親子同士の恋愛作品が一般誌では少ないのにはわけがある。あとがきによると「実親子同士の恋愛は一般商業では基本的にNGらしい」のだ。
そこでこの作品がとったのは、PixivFANBOXで連載をする、という同人誌形式。それを個人でいかにも商業誌っぽいデザインと装丁で単行本化。母娘愛を描きたいがゆえの巧みすぎるテクニック。なので一般書店では手に入らないが、Kindleだと普通に買える。KindleUnlimitedだと無料。
加えて母娘ものをライトに読める手法が随所に見られる。まず性的接触がキス以上に発展していない。キス表現もだいぶエロティックに描かれてはいるものの、親子でキスをするのは全くおかしなことじゃないのでセーフ。
また元夫のキャラクター性がどうしようもなくフォローの余地がないクズなのも、母娘の幸せを祈りたくなる一要因になっている。完全にヒモで浮気性、風俗に通い金をせびる救いがたい人間なので、母娘の百合を楽しむ際に彼への同情などは考慮に入れる必要が全くない。
母の清香側がチョロい人間で、そもそも彼女も自分の母(祐希の祖母)に対してかなりのマザコン、というのもいいアクセントになっている。清香をヒロインとして見た場合、娘に振り回されて赤面し、お母さんにいじられてキュンとなる、かわいいお母さんのマンガとしてすんなり読める作りになっている。
そして祐希は、確かに母に対しての恋愛性欲激高少女だが、睡眠欲と食欲も同じくらい高いので、子供らしくて安心して見ていられる。子犬のような彼女は、周囲の人間からすると愛される要素しかない、誰にも嫌われないキャラだ。
かなり丁寧に配慮しつつ、どこをとっても明るくハッピーな作品に仕上がっているので、安心して読める。このままふたりが何かをねじまげて、最後に結婚しても多分驚かないし祝福できる。とはいえ祐希の攻めやキスシーンは猛烈に艶めかしいので、是非そのギリギリを攻めつつもゆるい母娘百合を見せ続けてほしい。
ちなみにヘビーな母娘百合を読みたい人は同作者の『1×1/2-イチトニブンノイチ』がおすすめ。こちらもKindleでは普通に買うことができる。またアンソロジーとして『親子百合アンソロジー “My Sweet Home”』という本でも、この作者中村たいやきをはじめ、玄鉄絢、平尾アウリ、奥たまむしなどそうそうたるメンバーの百合作家が母娘百合を描いている。各種電子書籍で読むことができるのでこちらもぜひ。
©中村たいやき/コンパス