2021.07.19

ものを書く者同士の大正風・文学系ジュネ。陽が落ちた後、月明かりで密やかにお楽しみください。『ゆうづつは藍にとける』青井 秋【おすすめ漫画】

『ゆうづつは藍にとける』

ものを書く者同士のお話です。

駆け出し作家の慎太郎は、以前世話になっていた恩師のの家でしばらく下宿することになるのですが、そこには明るくにぎやかな章吾という書生がいました。人見知りの慎太郎には少々、居心地が悪い環境だったのですが、ある日たまたま、章吾が描いた文章を見ることになって、その文章に圧倒されます。

人柄ではなく文章から惹かれていくというのが素敵なんですよね。

文章には書く人の根っこの部分が絶対に入ってくるものですから、最初から芯の部分に惹かれていたというあたりがとても文学ジュネの香りで最高です。

慎太郎には、同級生に同性同士の恋愛がらみで苦い思い出があり、章吾にそのトラウマを刺激されて八つ当たりをしてしまい気まずくなってしまいます。生身の章吾はどちらかというと慎太郎の苦手なタイプで、友達にもならなさそうな性格同士だというのに、彼の書く文章にはどうしようもなく気になって、この物語の根源がどこにあるのかを知りたくなる──なのに生身の章吾は苦手なのです。苦手なのに気になるし、どんどん惹かれていきます。

一方の章吾も、一つ屋根の下に暮らす慎太郎の作品に触れて、彼に惹かれていきます。章吾は病気がちな弟のために物語を紡ぐようになり、弟が亡くなった後も書くことを止められずにずっと続けていました。

お互いが文章を通して恋していく感じが、しっとりじんわり心に沁みてきます。

大正っぽい時代設定もノスタルジックな雰囲気に拍車をかけています。書かれた文章から書き手のことが知りたくなって、そのまま恋に落ちる。単なる憧れで終わらずにちゃんと気持ちを伝えてぶつかって近づいていく様子が、とても眩しく感じられるのです。

激しい気持ちのぶつかりや派手な展開はないのですが、読んでいてすっと気持ちに入り込んでくるような静かなBL作品です。肌色シーンはほぼないです。

陽が落ちた後、月明かりで密やかに読みたいお話でした。

この記事を書いた人

アキミ

このライターの記事一覧

無料で読める漫画

すべて見る

    人気のレビュー

    すべて見る

        人気の漫画

        すべて見る

          おすすめの記事

          ランキング