2021.07.22

仕事を辞めた26歳女性の、たぬきときつねと共に過ごす人生の夏休みを描いたヒューマンドラマ『たぬきときつねと里暮らし』くみちょう【おすすめ漫画】

『たぬきときつねと里暮らし』

仕事を辞めた26歳女性、たぬきときつねと共に過ごす人生の夏休み

夏休み、田舎に行きたいは多いだろう。自然が好きだからとか、ゆっくり休めるからとか、親戚に会いたいからとか。田舎に戻って気持ちと価値観をリセットしたい、というのも理由の一つに入ると思う。

都会の喧騒から離れて時間の進み方が違う場所に行けば、視点そのものがガラリと変わって考え方が軽くなることもある。この作品はそんな田舎の効力を掘り下げ、かわいさ山盛りで表現した作品だ。

古畑泰葉(ふるはた・やすは)は、26歳の若さで本社勤をしていたもののあらゆるところに限界が来て辞職、祖母の住む田舎に返ってきた独身女性。何もかもを投げ出し山の中でのんびりしていたところ、「もも」「いち」というふたりの女の子が彼女の食料を食べているのを発見。

子どもは怯えて「ころさないでくださぁぁぁぁい」と泣き出す始末。

泰葉は別に気に留めておらずホットサンドを調理して渡すのだが、ふたりはそもそもホットサンドもサンドイッチもコンビニも知らない。お返しにももがくれた「おやつ」がカエル。田舎の子だからといってそんなことあるか…?

表紙を見ての通り、正体はたぬき(もも)ときつね(いち)。「田舎(山中)だから」「子どもだから」「動物だから」の3ステップで、都会暮らしの泰葉とは知識と価値観のギャップがすさまじいため、異文化交流作品として楽しめる。

人間ではないふたりに出会ったこと自体は大事件なはずだが、この作品ではほとんど事件として扱われないし、泰葉もあまり深刻視していない。それよりも、泰葉がふたりと交流する時に見えてくる価値観の違いをひとつひとつ丁寧に扱わっているのが、細かく描きこまれた田舎の光景と空気感から伝わってくる。

泰葉がインスタント麺をふたりに食べさせた時、たぬきのももが感動したのはおいしさだけではなかった。

「あたたかいごはんはおいしい! お姉さんのおかげで知れたよ!」

たぬきときつねはそもそも落ちてるものしか食べたことがない。食事があたたかいのは、当たり前ではない。

スマホや車のような現代科学から、お墓や文字のような日本文化まで、見るものすべてが発見。どこを開いてもふたりが楽しそうな顔をしているので、読めば確実に幸福な気持ちになれる。

主にやんちゃで無邪気で元気いっぱいなたぬきのもものかわいらしさが際立つ作品だが、横からツッコミを入れ続けるきつねのいちの描き方がユニーク。理性的で落ち着きがあるように見えて、実際は知識量はももとあまり変わらない。おかげで「ちょっと背伸びした子ども」感が際立つ、美味しいバランスのキャラになっている。

おそらくここまで新鮮な視点で生きているのなら、これからもふたりは世界に飽きることなく、率直に感動を伝え続けてくれるんだろう、と期待してしまう作品だ。

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たまごまご

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