2021.08.08
自分の変身姿にコンプレックスを抱えながら、ヒーローと高校生の二重生活を続けるふたりが繰り広げる入れ替わりラブコメ!『ヒロイック・コンプレックス』スズキダイチ【おすすめ漫画】
『ヒロイック・コンプレックス』
本日は、星海社「ツイ4」で2020年2月から12月にかけて集中連載された『ヒロイック・コンプレックス』を紹介しよう。
とある街に、怪人たちの脅威から人々の平和を守るひとりの変身ヒーローがいる。さらに、同じ街にひとりの変身ヒロインがいる。その正体は、見た目平凡な高校生の少年と少女である。
ただし! 男子高校生・大鳥葵(おおとりあおい)くんが変身するのはキラキラふわふわの可憐な戦闘美少女“ブルーウィング”のほう。そして彼に恋する女子高生・春野みすずちゃんが変身するのがマッシブな装甲に身を包んで敵を爆殺する超戦士“バーニングX”のほうなのだ。
大鳥くんは強くてたくましいヒーローに憧れている。そう、最近うわさのバーニングXみたいになれたらなぁ……。
一方で春野さんは可愛らしい“美少女ヒーロー”に憧れている。そう、あのブルーウィングみたいになれたらなぁ……。
それぞれ自分の変身姿にコンプレックスを抱えながら、ヒーローと高校生の二重生活を続けるふたり。家族にも友達にも、ましてや気になるあの子にはとてもじゃないけど打ち明けられない! 恥ずかしい!
かくして彼らは、お互いのヒーロー活動に気づかず日常のなかで自己紹介をかわし、デートを重ね、好意を募らせていく。ヒーローとしての素性だけでなく「自分がこの人を守らなくては」という気持ちまで秘密にしながら……。
以上が本作のあらましである。
そもそも、古今の特撮番組をはじめとする変身ヒーローの多くは「こんな自分になれたらいいな」という幼い憧れを具象化したファンタジーだ。本作はそこからさらに「しかし、なったヒーローがなりたい自分と違っていたら?」というヒネりを加えてあるのが見どころといえる。
可能性が山ほどある児童期を過ぎて、思春期まで育った青少年はそろそろ何者かになりつつあるお年ごろ。それは大人にさしかかり「こんな自分になるはずじゃなかった」というコンプレックスとの直面がじょじょに強まりはじめる時期だ。
しかも難儀なのは、なりたいもの/なりたくないものと性格的な相性が自分の望むほうに一致するとはかぎらないこと。
大鳥くんは美少女ヒーローになったのがイヤでたくましいヒーローになりたいが、実はふだんの性格やものの好みは可愛いらしさに寄っている。反対に春野さんはぶっそうな重装備ファイターになるのを好まず色恋に夢中でふわふわガーリーなベクトルを求めるが、肉体を屈強に鍛え上げて飲み食いのさまもワイルドで豪快。つまり各々の変身姿は「なりたくないけど、向いている」ものなのだ。
なりたい自分・なれない自分・なってしまった自分・なりやすい自分。そのうちの何をあきらめて何を受け入れ、何を乗り越えるのか。正しい答えはないだろうし、配分も人それぞれだろう。
正体と志向の食い違った変身ヒーロー/ヒロインのラブコメを通して描く『ヒロイック・コンプレックス』の人間模様は基本的には面白おかしいドタバタコメディだが、同時に私たちの誰もが現実に通る自意識のゆらぎをとらえた、噛みしめがいのある青春劇ともいえる。
はたして、大鳥くんと春野さんが自分と相手のなりたいものに向き合って行き着いた関係性がどんなものになるのか。
単行本は全2巻とコンパクトなので、ぜひ一気読みで確かめていただきたい。
©スズキダイチ/星海社