2021.08.11

「もっと女のコらしくしたい」人気女子中学生Vチューバーの、VR空間での淡い恋の物語『青のアイリス』やぶうち優【おすすめ漫画】

『青のアイリス』

「もっと女のコらしくしたい」人気女子中学生Vチューバーの、VR空間での淡い恋の物語

アバターを用いて動画配信をするVチューバー(VTuber・バーチャルYouTuber)もすっかり言葉として定着しはじめてきた。アニメキャラクター風の存在が話しかけてくる不思議な光景も、見慣れた人には当たり前になってきたかもしれない。Vチューバーを演る人が絶えないのは、好きな姿になれるから、というのがひとつの大きな理由だろう。

青のアイリス』は雑誌「ちゃお」で、女子中学生のVチューバーを題材にした異色の恋愛コミック。Vチューバー配信の際のディティールの細かさからVRでのチャットまで、かなり現実の技術を調べ尽くして描きつつ、しっかりと中学生の恋愛にスポットを当てている作品だ。

主人公の虹ヶ原愛理(にじがはら・あいり)は、女子たちに「イケメン」と言われるほど、活発で考えるより体が先に動く元気な中学2年生の女の子。ついたあだ名が「野獣の騎士」。本人はこれをあまりうれしく思っていない。

「ホントはもっと女のコらしくしたい」「かわいくなりたい…」

彼女は家に帰ると、兄のサポートの元でVチューバー・青野アイリスとして活動している。フォロワーは100万人越えと非常に人気が高い。のびのびと笑顔で歌い、トークする彼女。あたしがなりたい「私」になれる場所なんだ!とバーチャル空間での活動を謳歌している。

扱っている題材は珍しいが、形式は変身魔法少女ものと似ている。理想の姿になれる変身願望を満たすツールが、魔法からVRになったという感じ。ただし不特定多数の視聴者がいる、というのがやぶうち優作品の尖ったところだ。

アイリス自体がアイドル的存在ではあるが、ステージにあがるわけではない。あくまでも行われているのは配信であり、見ている相手の様子は善意も悪意も全く見えないインターネット特有の感覚が描かれている。視聴者から目に見える形で届くのは笑顔や歓声ではなく、「いいね」のハートマークだ。

3Dアバターを利用しているため、Vチューバー活動の際はヘッドマウントディスプレイをかぶって、モーショントラッカーを身体に装備。手には指先のトラッキングを行う機器も身につけている。変身道具にあたるVR機器の描写が細かく、ヘッドマウントディスプレイを外した時に現実に戻る感覚もかなり生々しい。VR内で夢中になって話している時、帰って来ていた兄に気づけないなど、VRあるあるもたっぷりだ。

さらにこの作品では、Vチューバーとしての撮影空間と別に、バーチャル交流スペース「パンドラ」という場所が描かれている。今注目を浴びている「メタバース」にあたるもので、現在であればVRChatやclusterのサービスにかなり近い。東京をデジタルにアレンジしたVR空間には、人間のみならず多種多様なアバターが集まってきている。

ダイナミックなVRライブが開催されている様子も、現実の技術をうまく漫画的にアレンジし表現している。

物語は愛理がVR空間で出会った少年との恋の話に広がっていく。すると、バーチャルな姿の自分「青野アイリス」と、本当の自分「虹ヶ原愛理」、相手にどう見られたいのか、自身はどうありたいのかというアイデンティティの話にぶつかっていく。現実世界とVR世界の両方の描写を重ねながら、愛理が自身を見つけられるかどうかがストーリーの大きなカギになりそうだが、現実の成功体験的感覚が、バーチャルだとどう描かれるのかがかなり気になる。

ちなみに、『ないしょのつぼみ』などで子どもたちへの教育的思想をきっちりおさえてきた作者なだけあって、バーチャル世界での注意事項もまめに描きこまれている。セクハラ的目的で近づいてくる、見た目が女の子アバターの成人男性が出てくるシーンは、かなり強烈。

Vチューバーアイリスが配信で悩み事に対して答えたときも、「あわてないで必ず大人の人に相談すること!」という兄のアドバイスを付けることで、ムードを壊さずにネットの意見に対する向き合い方を提示しているのもうまい。リテラシー面できめ細やかに配慮されたことで、子どもが安心して読むことのできるVR漫画に仕上がっている。

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たまごまご

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