2021.08.18

同居人は、自分の姉のことが好きな女性。奇妙な距離感の成人女子ふたりの成長物語『姉を好きなお姉さんと』真くん【おすすめ漫画】

『姉を好きなお姉さんと』

同居人は、自分の姉のことが好きな女性。奇妙な距離感の成人女子ふたりの成長物語

この作品を「百合」とジャンル分けしていいかどうかは、ちょっと悩ましい。一応タイトルのように成人女性の恋愛要素を含んでいる…として見ることもできるが、どちらかというと、25を過ぎた大人の女性たちが自分たちの人生を取り戻していく物語、という方が近い(でも百合好きにはがっちりおすすめです!)。

人間関係がややこしいので、先にこの1巻の表紙を見ながら解説をしていきたい。

まず真ん中にいるのが主人公にあたる、日代(ひしろ)きのめ、26歳。住むところを探している会社員の女性で気遣い屋の常識人。

右がそのお姉さんくるみ。割とマイペースで適当で図太いけどいい人。笑顔でへらへらしているが、芯が通っているので頼れる人物。

そして左が、くるみのことを好きな女性、水城(みずしろ)あけび。見た目はクールビューティで表情が薄く、姉には猛アタック中だけどきっぱり断られっぱなし。おそらくきのめより年上。

あけびが自分のことを恋愛的に大好きだと知っていながら、姉のくるみはそれを断り続けている。なのにくるみはあけびの家に、妹のきのめを住まわせることを決定する…、という傍若無人から物語はスタート。

あけびときのめは当然初顔合わせ。気まずいったらない。この変な関係を皮切りに、ふたりが自分たちの人間関係の距離のとり方を見直していくのが話しの本筋だ。

あけびの家に居候することになったきのめは、彼女が超絶売れっ子漫画家であること、それでいて自分自身のことには無頓着で、姉に貢ぎ癖があることを知るようになる。

大好きなのはわかるが、これはちょっとギャグでは済まない。彼女は好きな人のため愛情を渡そうと必死で尽くすことに満足をし、相手から返ってくることを期待できない人物。彼女の人間関係の感覚のゆがみは、真剣に向き合ってくれるきのめのおかげで取り戻されていく。普段無表情な彼女の顔がの変化で繊細に表現されているのが、この漫画の見どころのひとつ。

一方きのめは男運が極めて悪く(優しい人間であるがゆえにダメ男に絡まれやすい)、ストーカーやセクハラなど身の危険にすこぶるあいやすく男が苦手。この状況について、あけび(本人も男性恐怖症)が割って入り物理的に保護するシーンもある。

きのめが迷惑をかけるからと遠慮する中、あけびが「いっしょに暮らしませんか」「私は単に妹さんにここにいて欲しくて言ってる」と心からの言葉をかけてくれる。

ここもふたりの距離が縮まる瞬間が見える、素敵なポイントのひとつだ。

あけびが姉のことを好きなのはきっかけに過ぎず、きのめとあけびが一対一の関係で目を向けあっていく成長描写がとても見ていて気持ちがいい。ふたりの「いっしょにいたい」という感情は、恋愛や家族愛とはちょっと異なる特別なものだというのが、対人関係の感覚を純粋に描く上で絶妙だ。

全員もう立派な大人だけど、きのめ目線で見るとあけびは思春期を通過しきれていない子どものよう。牛歩ながらもあけびときのめがふたりで過ごすことで成長する姿は、背伸びしすぎない上に大人らしく責任感もあるので、読んでいて安心ができる。

主に共感度が高いであろう女性におすすめしたい作品だが、この独特な他人との距離感克服問題は人間全てに通じる悩みでもあるので、男性や成人していない若い子にも読んでもらいたい。

ふたりがなぜ男性恐怖症気味になったのかもしっかり描かれているのも特徴的で、たとえば「料理がうまい=いいお嫁さんになる・家庭的」と言われることがどれだけ傷つくか、など女性にとってはあるある、男性は心に刻んでおくべき話題も多い。

その上で、みんなが幸せになってほしいと願いたくなる作品なのだが、関係がややこしいのでどうすれば一番幸せになるのかが難しい。そもそもこの漫画は「幸せ=恋愛成就」ではなさそうだからこそ、それぞれの一番いいさじ加減の幸せを見せてほしいと願うばかりだ。まずはあけびが、きのめのことを「妹さん」と呼ぶのを脱するところから。

この記事を書いた人

たまごまご

このライターの記事一覧

無料で読める漫画

すべて見る

    人気のレビュー

    すべて見る

        人気の漫画

        すべて見る

          おすすめの記事

          ランキング