2021.09.01

日本刀を持つ小さな女学生と戦争で死にそこねた大柄な武士が繰り広げる、明治浪漫譚!『勇気あるものより散れ』相田裕【おすすめ漫画】

『勇気あるものより散れ』

小さな袴の少女と大きな生き残り武士は、死ぬために明治の世で戦う

「幼い容姿の少女と凛々しい成人男性」が出てくる漫画は、非常に魅力的なジャンル。その中でも伝説的作品のひとつが『GUNSLINGER GIRL』。凄惨な過去を背負った少女が、記憶を抹消され有機的サイボーグのように大人の男と組んで死線をくぐり抜ける様子は、悲劇の連続で多くのファンの心を掴んだりズタボロにしたりした。

その作者である相田裕先生の最新作『勇気あるものより散れ』は、明治初期の日本が舞台。黒髪ロングに袴姿、ブーツを履いて大きなリボンを付けた日本刀を持つ背の小さい女学生と、江戸末期の戦争で死にそこねた、忠義に厚い大柄な武士の生き残りの男性の組み合わせ。

ふたりが歩いているだけで胸が高鳴るほどに物語性のある絵柄になる(第3話の扉絵は2人の性格も出ており、一枚絵として必見!)。

鬼生田九郎次郎春安(おにうだ・くろうじろう・はるやす)は元会津藩の武士。戦で死にそこねた彼は、武士のいなくなった明治で虚しさに打ちひしがれていた。彼が死ぬ前の一仕事として大久保利通の馬車を襲撃した時、そこから飛び出してきたのは小柄で日本刀を構えた女学生の九皐(きゅうこう)シノだった。

咄嗟に春安は彼女の喉元を切り裂くが、彼女は死ななかった。銀髪になって起き上がる彼女に一突きされ、逆に死にかける春安。元から死ぬつもりだった彼は「死は救いだ…」と漏らす。

それを聞いたシノは彼に自らの血を飲ませた。一命をとりとめた彼に、シノは言う。

「春安…私の味方になって…私の目的は…母を殺して自分も死ぬことです」

死のために戦う2人の物語は、そこまで陰惨ではない。シノの母親が自分たちの持つ力のせいであるひどい目にあって心が壊れてしまうなど、えげつないシーンはあるものの、2人には目的がしっかりあるので、行動はかなり前向きだ。

特に春安がシノに出会ったことで吹っ切れているのが心地良い。シノは自分と母親の呪われたような運命を嫌悪しているのだが、「人間としての生を奪ってしまって御免なさい」という彼女に対し、春安は「どう命を捨てるかばかり考えてきたが…使うものだと思い出したわ! 主が下僕に詫びてどうする? さあ命じてくれ!」とシノの苦しむ心をしっかり救っている。またお互い最初に一戦交え殺し合ったのもあり、腕前に関しては信頼関係ががっちり生まれているのも、見ていて気持ちがいい。

今後の大きな物語にそなえてなのか、1巻はかなりスピーディーな展開になっている。主従関係とはいえ、双方が強く意思を持って語る人間なので距離感はいい塩梅。テンポのいいバディものだ。刀と銃の派手なアクションもありつつ、死なないシノと春安ならではの戦い方も見られて爽快。

死を大きな軸としつつ、ここからさらに登場人物が増えて、話は大きな規模になっていきそうだ。特にシノが、死ねないがゆえに見てきたものどう描かれるのか楽しみだ。

ところでこの作品、もうひとり特殊なヒロインがいる。旗本の娘で春安と共に戦っている菖蒲(あやめ)だ。男女ともに和服姿でリアルな日本の空気が強いこの作品において、肩が出そうな短い袖に超ミニな着物の裾、太ももまであるブーツにショートカットポニテ、こぼれそうな超絶巨乳という、ゲームに登場しそうなキャラクターだ。

ものすごく性格のよい子で、春安と共に命をかけて戦ったり、シノに思いやりをもって仕えたりと、作品の空気を支える大切な存在になっている。並ぶとまるでシノのお姉さんのようだ。

彼女のデザインがあまりにも特殊なので、今後他のキャラがどういうスタイルで出てくるかちょっと現時点では想像がつかない。多少奇抜なデザインでも違和感がなさそうだ。ただ男たちは命を燃やしてかっこよく、女たちは命を賭して美しく、という人間のあり方はどのキャラも徹底されているので、人の美と業を存分に楽しめそうなワクワクする作品だ。

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たまごまご

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