2021.09.05

ゴリラ顔の体育教師が「物語」のあらゆるフラグを折り倒す、コメディ作品!『ゴリせん 〜パニックもので真っ先に死ぬタイプの体育教師〜』酒井大輔【おすすめ漫画】

『ゴリせん 〜パニックもので真っ先に死ぬタイプの体育教師〜』

SF・ファンタジーなどの世界観。
宇宙人・ゾンビ・ロボットなどのキャラクター。
戦争・医療現場・法廷などの舞台。
ホラー・サスペンス・スリラーなどの心理的アピール。

複数の作品があり、題材に大きな公約数があればそこにはジャンル概念が成立する。
ジャンルのもとでは定番・お約束なシチュエーションが共有され、受け手の「よっ、待ってました!」という期待に応えて楽しませる柱となるが、それは同時に見飽きた展開へ陳腐化していく下り坂でもある。

だから、ジャンルはつねに自らの破壊者を生むのだ。「こうなればこうなる……と見せかけてこうなる!」という刺激的な変化球を。

ここに、ひとりのジャンル破壊者がいる。
アダ名は“ゴリ先”。ゴリラ先生の略である。
マッチョな身体にジャージをまとい、ゴリラめいた厳つい顔つきで校則にうるさいおっさん先生。本作のサブタイトルにいわく「パニックもので真っ先に死ぬタイプの体育教師」。たしかにそんな感じの風体だ。

実際にゴリ先は毎回、ジャンル作品の導入部分に置かれる運命を背負っている。

生徒に化けた人喰いのモンスターが急に正体をあらわし、大きな口でバクンと噛みついてきたり。
デスゲームの開催を言い渡す不気味な人形が言うことをきかない人間への見せしめとして銃撃してきたり。
学園異能バトルの強敵が廊下ですれ違いざまに能力を発動してきたり。

つまり「こういう恐ろしい存在がこういう脅威をもたらしますよ」という説明のための犠牲者役。ドラマティックな展開の前兆を示す、いわゆる“フラグ”担当である。

そのフラグを、ゴリ先は毎度毎度あっさり踏み倒していく。致命的な武器や超自然の攻撃もすべて持ち前の剛腕とタフネスで押しのけ、こら! と一喝。そんな最強のモブキャラ相手にモンスターも能力者も宇宙人もただヤンチャをした悪ガキ程度の存在になりさがる。この落差が本作の笑いどころだ。

それを上ではジャンル破壊と述べたが、別の言い方をすれば、ありとあらゆるジャンルを現実ベースの学園ものへ強引に塗り替える強烈なジャンル上書きと形容することもできるだろう。

ゴリ先は校則を破った生徒を叱るだけのいち教師。校門前に立つ体育教師キャラからブレない男であり、彼自身なりのジャンル性をもって他を圧倒し、憑き物落としのような営みをやっているのだ。無自覚に。

……と、ここで一考を誘われる。
それじゃあ、お約束の破壊と上書きそれ自体がお約束になった本作そのものの始末がつけられる日はくるのだろうか?
いまだ訪れぬ連載の果ての果てに思いを馳せながら、今後もゴリ先の活躍を追いかけていきたい。

なお、本作はもともとTwitter上で人気を集めた連作漫画を2021年2月から「ヤンマガWeb」で商業化したもの。加筆修正があるのでTwitter版と商業版を比べ読みしてみるのも面白いだろう。

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miyamo

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