2021.09.08
お酒がつなぐ女子大生の素敵な関係。ガール・ミーツ・ガール(鬼)同居物語!『酒と鬼は二合まで』羽柴実里, zinbei【おすすめ漫画】
『酒と鬼は二合まで』
お酒がつなぐ女子大生の素敵な関係 ガール・ミーツ・ガール(鬼)同居物語
タイトルの「鬼」は「オンナ」と読む。オンナがオンナ(鬼)のために、腕によりをかけてカクテルを作るこの作品はおいしい要素がてんこ盛りだ。
まずヒロインの志田波織(しだ・なおり)はおじいちゃんに憧れカクテル作りが大好きな女子大生。なのでこの作品は様々なカクテルネタが出てくる「お酒紹介漫画」だ。
バーテンを目指す彼女だが、人と話すのがすこぶる苦手でコミュ障の自認あり。大学入学後も人と話せず、飲み会では孤立してしまう。居心地が悪い彼女のとなりに座ったのは、明るく華やかで、波織に楽しそうに話しかけてくるギャル、伊吹(いぶき)ひなた。ここで「ガール・ミーツ・ガール漫画」の要素が入る。
ひなたは実は酒呑童子。お酒を飲んで生きていくのだが、人から与えられた酒しか飲むことができない。しかももらった酒を飲むと姿がもとに戻り角が生えてしまうので、人前では飲めない。そこでカクテル作りが得意な波織に頼み込む。
「あたしの飼い主(バーテンダー)になってよ」。
こうして物語は「怪奇譚」としての性質も持ち始める。
自由奔放なひなたは、酒のためにと波織の部屋に転がり込んで、あっという間に同居生活がスタート。最初は振り回される波織だが、真面目で人付き合いが苦手な彼女もひなたののびのび裏表のない姿に心を開く。
「誰かのために作るっていいもんですねぇ」
陽のひなたと陰の波織、感覚の違うふたりの「同居物語漫画」形式が始まる。ふたりしか知らない本当の姿をたっぷり見られるのが、この形式の魅力。
いろいろな要素がそれぞれいい塩梅で配合され、カクテルのようにシェイクされて味が出ている作品だ。
同居描写パートでは、2人仲良くひとつの毛布にくるまって「スミノフのホットアップル」にシナモンと生姜を入れたものを飲んで体を温めている。急に転がり込んできたので一緒のベッドで寝ている描写も、説明無くしれっと描かれている。
ふたりだけの特別な強度の信頼関係が生まれていく際、そこには必ずお酒が入る。酒呑童子の命をつなぐものだからではあるが、波織がひなたのために心をこめて、彼女にとって一番必要であろうものを考えて作っているから、そのカクテル自体が言葉になっている。
ふたりの会話を象徴するようなやさしいお酒が多く出てくるので、お酒が飲めない読者でもつい気になってしまうものが見つかるはず。おそらく波織はいいバーテンになれる技術はすでにもっているだろう。けれども、今はひなただけのため作っている、というのもキュンとくる。
怪奇譚部分は、日常パートではそこまで出てくるわけではない。しかし、人間になりたい、と願って積極的に動くひなたの、かなわない切ない描写がたまに出てくる。基本明るく元気な愛されっ子の彼女、それでも彼女の血筋の呪いが、人にさせてくれない。ここで物語に緩急が出てくる。
カクテルが混ざる時、甘みと辛味と酸味がよりお互いを引き立てる味になるように、物語のいろいろな要素が相互作用して魅力が高まっていくタイプの物語構成なので、あっという間に読めてしまう魅力と、2巻以降が気になる引きの強さがある作品だ。
©羽柴実里, zinbei/スクウェア・エニックス