2018.02.26

【まとめ】その発想はなかった! ジャンル合体がおもしろいマンガ

見渡せば星の数ほどある表現作品には、それぞれ題材やコンセプトが存在する。

そこからたまたまか、あるいは影響を与えあいながら、同じような題材をあつかう作品が複数出てきて「ジャンル」が形成され、読者のニーズに応える土壌となるのが世の常だ。
ただ、ジャンル形成は供給過剰やお約束化によって食傷を招きがちでもある。
しまいには作品を見る前から「〇〇モノってありがちだよな~」なんて言われてしまう場合もあるだろう。

そこでクリエイターがくりだす手のひとつが、ある題材に対してまったく別種の題材をかけあわせる異ジャンル合体の技法だ。
おなじみのジャンルが組み合わせによって「その発想はなかった!」という新味を生み出す……。
今回は、そんな刺激的なマンガたちを紹介してみよう。

土木作業+グルメ

『ドカコック』

もともと「食」ジャンルは、それ自体が組み合わせの宝庫である。
ファンタジーRPGに調理グルメを合わせた『ダンジョン飯』、かの有名料理少年マンガにまさかのタイムスリップ要素を加えた『ミスター味っ子 幕末編』、義姉妹百合で料理うんちくを彩る『新米姉妹のふたりふたりごはん』……。
そんな中、「その発想はなかった」感がひときわ高いのが『ドカコック』(渡辺保裕/一迅社)だ。

「ドカ」すなわち土木作業員
彼らが働く現場には、なにかとトラブルが起きやすい。
工期の遅れ、人手不足、作業員同士のケンカ、失われる働きがい等々。

そんなとき、旨いメシを作って作業員のお腹だけでなく心も満たして現場に活力を与える伝説の流れドカ、通称「ドカコック」があらわれる。

地盤改良のように肉を叩き!
一流の大工がカンナで木材を削るようにカツオブシを削り出し!
包丁で食材を勢いよく小刻みにするリズムは道路を叩き固めるランマ(締固め用機械)のごとし

調理工程すべてを土木工事になぞらえたドカコックの料理を食べて、現場のテンションは最高潮にアガり、彼が関わった工事は必ず大成功をおさめるのだ。
土木建築+グルメという無茶な組み合わせを、工事をおこなうには力が必要→力の源はメシ→うまいメシを食わせれば工事ができる、というロジックで絶妙な説得力をもたせているのが技あり。

虫+ミステリ

『ベクター・ケースファイル 稲穂の昆虫記』

ミステリ分野もまた組み合わせの受け皿として懐が広い世界で、しばしばユニークな題材を合成した作品を目にする機会がある。

『ベクター・ケースファイル 稲穂の昆虫記』(藤見泰高,カミムラ晋作/秋田書店)はタイトルどおり、昆虫をはじめ「虫」のたぐいが関わる問題をミステリに仕立てたマンガだ。
先に週刊少年チャンピオンで『サイカチ 真夏の昆虫格闘記』(2005~2006年)というクワガタ相撲のマンガが連載されていたのだが、そちらの主人公を鍛える師匠的存在だった女子高生をメインにした派生作として、前作終了後に系列誌の「チャンピオンRED」で4年間にわたり連載されたものである(つまりスピンオフのほうが長期連載になったという……)。

主人公の榎稲穂(えのき いなほ)は、昆虫博物館に属する教授の娘でみずからも昆虫学に精通する白衣姿の女子高生。
淡々とクールな物腰だが、親しい友人や生き物に対する愛情深さもそなえた彼女は、周囲の人々を悩ませる不可解な出来事の裏に「虫」の存在を察知し、真相に光をあてていく。

食中毒をうたがわれた中華料理店で本当は何が起こったのか?
音楽好きな少女をおびやかす、耳の奥から不気味な雑音が聴こえる“呪い”の正体は?
町じゅうで鳥が大量に死にはじめ、鳥インフルエンザの蔓延かと思われたが、実は……?

人間の日常生活の隙間にひそむモノとの対決という点で、虫とミステリの意外なほどの相性のよさが感じられるマンガだ。

江戸時代+腐女子

『咲くは江戸にもその素質』

男キャラクター同士の関係性を愛好するBL(ボーイズラブ)に耽る女性、いわゆる「腐女子」
そんな腐女子を主人公とする作品は近年徐々に増えているが、本作は「その趣味がもしも何百年も昔の少女に芽生えたら?」という時間軸ギャップを設けている。

江戸時代のある時期、寺子屋に通うひとりの少女が『南総里見八犬伝』を読んだ。
そして少女はふと、男同士の登場人物の仲に恋愛的な解釈をするとものすごく興奮することに気づいてしまう。
それが、すべてのはじまりとなった。

ポイントは、そもそも江戸時代に「BL」という概念が存在していなかったことだ。
もちろん「衆道」やそれに類する言葉はあったが、当事者をはたから見守るという趣味を持つ腐女子を主体としたものではない。

タイトルでいう「その素質」に目覚めた少女たちは「受け・攻め」などの便利な用語を知る由もないため独自の言い方を開発して、さらに今でいう二次創作同人誌にあたるものまで作っていくことになる。
腐女子あるあるがとても鮮度の高いものとしてゼロから洗い出される感覚は、時代設定の勝利と言えるだろう。

いったん目覚めると、身近にいる男の子どうしのやりとりまでBL読みをしてしまうようになるなど、BLとは世界の見方であるという切り口はとても奥深い。
何も知らなかった友達がBLの沼に入るのを見届ける瞬間の暗い愉悦や、解釈違いで陥る友情の危機など、きわどい状況までまっすぐ描いているのも好感をもてる。

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古代エジプト+現代日常

『ファラ夫』

まずはとにかく、表紙を見ていただきたい。
コンビニの前で行儀悪くしゃがんで休憩している店員服の……ファラオ!!

なぜか縄文時代の地層から棺ごと出土した黄金仮面ミイラ状態のファラオが眠りから目覚め、現代日本でドタバタしたりダラダラしたりするギャグマンガ、それが『ファラ夫』(和田洋人/講談社)である。

ジャンル組み合わせの面白さは、ギャップの面白さ
そこでは題材の性質がぜんぜん違うものを組み合わせるほかに、時間軸でかけはなれたものをくっつけるケースもある。

『ファラ夫』の場合がまさにそれで、古代エジプトの王様+現代日本の庶民生活という歴史的ギャップをうまくあつかっているのが見どころ。
永い眠りから復活したファラオが東京で市民権を得てコンビニのアルバイトにいそしんだ帰り、ご近所の銭湯に入ってしみじみという一言「生き返るわ~~」に本作の趣がよくあらわれている。

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エルフ+ぽっちゃり

『エルフさんは痩せられない。』

ファンタジーにおけるエルフといえば、往年の名作『ロードス島戦記』のキャラクターを皮切りに、しゅっとスマートなイメージが主流である。
そこへ、ぽっちゃりと太った女の子を愛でるフェティッシュな趣向をかけ算した大胆なマンガが『エルフさんは痩せられない。』(シネクドキ/ワニブックス)という作品。

マッサージ店で整体師として働く若者が、異世界から日本へ渡ってきた女性エルフにダイエットコースで施術することになるが、運動不足・ストレス・高カロリー食にあふれた現代日本では、エルフといえど肥満の罠からはなかなか逃れられないようで……という内容。

フライドポテトの誘惑にさからえないエルフさんをはじめ、本人たちには不本意なレベルでお腹やお尻がむっちむちの豊満になってしまった肉体が丹念に描き込まれた絵面には、「エルフでこれをやる手があったとは……」と感心させられどおしになる。

〇〇であればこう、という既成概念を逆手にとるのもジャンル組み合わせの真骨頂だ。

ゴスロリ+格闘

『桃魂ユーマ』

「カワイイ少女趣味+バイオレンス」という組み合わせは、ある作品のなかでそういうキャラクターが一人混じっているという単位だとよく見かけるところではある。
だが、それを作品そのものの中心コンセプトとしてすさまじい剛腕によってまとめ上げた点で特筆できるのが、『桃魂ユーマ』(井上元伸/秋田書店)というマンガだ。

主人公・桃千ユーマは、ゴシックロリータ系の衣装をこよなく愛する乙女。
ただし身長180cmオーバーという恵まれすぎた体格のため、格好の似合わなさで周囲に冷たい目を向けられる不遇の日々を送っていた。

そんな彼女が転入先で出会ったのが、極悪不良の巣窟である学校の中でユーマと同じゴスロリ少女たちがひそかに身を寄せ合う研究会だった。
ついに仲間を得て、明るいゴスロリ生活がはじまると喜ぶユーマ。
だが、校内の縄張りを広げようとするいかつい不良生徒たちが乱暴狼藉をはたらき、ゴスロリ研究室の少女たちが襲われそうになる……ただひとり、見た目のゴツいユーマだけはスルーされて
色んな意味で乙女心が傷ついたユーマは内なる激情を爆発させ、すさまじい戦闘力で不良たちを蹴散らしていく。
その結果、学校の勢力図がゆらぎはじめ、ユーマは本人の趣味とは裏腹に血みどろな派閥抗争に巻き込まれていくのだった。

バトルシーンを盛り上げる解説ナレーション芸のうまさは、作者の井上元伸が『グラップラー刃牙』シリーズでおなじみ板垣恵介「いたがきぐみ」出身だと知ればなるほど納得。

ユーマ自身は不良たちを可愛らしくポカポカ叩いているくらいのつもりだという主観映像と、実際にはボコ殴りで半殺しにしている客観映像を並べるくだりは、ギャップが激しい題材の組み合わせならではの笑いを誘う名シーンだ。


さて、いかがだろうか。
もちろん今回挙げた以外にも、まったく新しい組み合わせが面白い作品は色々とあるはずだ。
既存ジャンルにどっぷり漬かった脳のリフレッシュとして、一筋縄ではいかない化学反応を起こしているジャンル合体マンガをみなさんもぜひ探してみてほしい。

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miyamo

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