2021.09.21
1ページごとに1人の漫画家がおすすめの「ごはんのおとも」メニューを1つずつ紹介する、グルメ系アンソロジー!『漫画家のごはんのおとも語り』KADOKAWAごはん推進部【おすすめ漫画】
『漫画家のごはんのおとも語り』
新作の連載もいいけど完結してる旧作もね!(おせちもいいけどカレーもね的な意味で)
というわけで本日は少しばかり時期をさかのぼり、2018年3月に刊行されたこちらの一冊をご案内。
題して『漫画家のごはんのおとも語り』。
雑誌「電撃PlayStation」系列のpixiv内サイト「pixivデンプレコミック」では2017年秋に第1回が配信、また単行本が出た後にはTwitter上の「電撃Twitterマガジン」アカウントでも全編配信がおこなわれたグルメ系アンソロジーである。
テーマはそのものずばり、“ごはんのおとも”。
1ページごとに1人の漫画家がおすすめのメニューを1つずつ紹介するエッセイ漫画を集めた企画本で、参加人数は実に60人にもおよぶ。
いわば全60種のごはんレシピ本になっており、ページをめくってもめくってもホカホカの白米にぴったりの具を乗せてパクつく光景が目に飛び込んでくる。食欲をそそり続ける内容みっちりで、読む時間帯によってはたいへん危険な代物だ。
白い飯に何かを合わせ、食べる──言葉にすればただそれだけのこと。しかし実際の営みとしては、そこに言葉では語り尽くせぬ豊かさがある。
京都をサイクリング中に見かけた神社内の漬け物店で出会ったなす漬けとお茶漬け用のみぶな(第14回、緒方てい先生)。
子供のころにおばあちゃんが作ってくれた思い出の品として懐古される、パックの納豆にネギ・卵・青のりを混ぜたアレンジ納豆(第26回、左東武之先生)。
親が北海道育ちなので筋子の塩漬けに対するハードルが上がっている舌でもイケる、筋子の粕漬け(第59回、四ツ原フリコ先生)。
あるいは近所のスーパーでさっと買える瓶や缶詰、はたまた日本食ではなく洋食や他のアジア系メニューなどなど……。
人が違えば食事をとりまくTPOもさまざまだ。だから、読者へ抱かせる「美味しそう」という情感も各漫画家ごとに意味が違っている。
ちなみに、私が読んでいて個人的にグっときたのは第52回、目黒三吉先生による「塩」。
中学生時代の夜遅く、小腹がすいた少年が自分でこしらえたおにぎり。電子ジャーに残っている米飯だけで、パッパッと手に塩をふってにぎった極限にシンプルな一皿。具はないけれど、夜食というもののロマンがいっぱいにつまっている。ただの塩がごはんのベストパートナーになる主観的な時間が切り出された秀逸な一編だ。
食べものにつながる“文脈”を通して、漫画家それぞれの暮らしぶりや生まれ育ちまでにじみ出る奥行き深さ。それがこのアンソロジーの醍醐味になっている。
©KADOKAWAごはん推進部/KADOKAWA