2021.10.20

愛する人を蘇らせるために生きていく 狂気のネクロマンサー医師のスピンオフ!『SHAMAN KING FAUST8 永遠のエリザ』武井宏之, 虎走かける, 田中文【おすすめ漫画】

『SHAMAN KING FAUST8 永遠のエリザ』

愛する人を蘇らせるために生きていく 狂気のネクロマンサー医師のスピンオフ!

アニメリメイク版が話題の、『シャーマンキング』はスピンオフが多数出ている。X-LOWSを描いた『マルコス』、道家を描く『レッドクリムゾン』、花組3人娘の『& a garden』、そして今回発売された小説版のコミカライズ『SHAMAN KING FAUST8』。

どれもこれも話は特濃。世界中の数多くのシャーマンが、それぞれの信念を持って集結している群像劇だからこそできるスピンオフの数々だ。

SHAMAN KING FAUST8 永遠のエリザ』は、本編でもかなり出番の多い主要キャラの一人、ファウスト8世の過去を描いた作品。ファウスト8世は、医学に精通した暗い目の美青年で、愛する人の全身骨格を持って歩く、身体につぎはぎのあるネクロマンサーにして、悪魔と契約したと伝わる「ファウスト」の子孫。

『シャーマンキング』自体たくさん人が死ぬ作品とはいえ、彼に関しては生きたまま少年を解剖するシーンなどもあり、猟奇性では頭一つ抜けた存在だ。

原作前半で操る大量の人骨での戦い方や、中盤から出てくるエリザの遺骨を媒介にした巨大悪魔のオーバーソウル(持霊の具現化のようなもの)など、あらゆるものが耽美。両足を失っているので普段は車椅子に乗っているのだが、愛犬フランケン・シュタイニーの骨をまとって歩くビジュアルはかなりゴシック。

人々が命がけでシャーマンキングを目指すのは、みんな大きな野望があってそれを叶えたいから。そんな中でファウスト8世の夢は、エリザを蘇生すること、ただ1点だけだ。なぜここまで一途なのか、そこに至るまでの悲劇を『SHAMAN KING FAUST8 永遠のエリザ』がしっかりと深堀りしている。

おとなしくマジメな、医者になるためだけに勉強を続けていた初等科に入る前のファウスト8世。周りを見ることがなかった彼が強く惹かれたのは、不治の病だった少女エリザ。彼女を救いたいという一心で、11歳で医学部に合格。治療法探しに没頭していく。

オリジナルキャラクターのヴォルフガングの存在が、視野狭窄にならないよういい塩梅で作品を盛り上げている。エリザのことが好きな幼なじみの頑強な青年だ。

若きファウスト8世が「エリザはぼくを騎士と言ってくれたけど その呼び名にふさわしいのは彼の方だ」と、身を引く覚悟までしていたほどの好青年。ヴォルフガングもまた、一途なファウスト8世のことを認めており、エリザに「告白しろ」と背中を押す、心を開いた友情の間柄だ。

ヴォルフガングは舞台である20世紀ドイツの実情も生々しく語っている。二人がいたのはちょうどベルリンの壁が残っていた頃で、世界の不幸をすぐ身近で体験している状況だ。

また20世紀キリスト教の中育ってきたドイツ人の「生体移植」の価値観もここでぶつかりあう。ファウスト8世はエリザを救うためなら移植もありだという考え方。ヴォルフガングはそれが許容できない。

ただ彼の存在のおかげで、ファウスト8世は移植について「否定的な人もいることは知っている」「他人が生きようとする行為まで否定する権利はない」とかなり理性を持った上で反論をしている。これは原作の、神をも恐れぬがむしゃらなファウスト8世では見られなかった言動だ。何がなんでも救いたいというファウスト8世、まずは生命倫理を考えてほしいというヴォルフガング。

認めあっているふたりだからこその、価値観のぶつかりあいが面白い。

ヴォルフガングの登場のおかげで、ファウスト8世が浮世離れしすぎていない、ごく普通の感性の照れ屋な青年なのが見えてくる作品。共感しやすいキャラクター描写がコミカライズにあたって多くなったからこそ、その後訪れる悲劇からの、原作での狂気がぐっと魅力的になる。

『シャーマンキング』ファンはもちろん、この作品だけでも「悪魔に魂を売った青年の話」として楽しめるので、ぜひおすすめしたい。ほんの少しだけグロテスク描写があるのでそこだけご注意を。

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たまごまご

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