2021.11.17

15歳の少女と、冴えない40歳中年男。痛々しく破滅的な、2人の逃避行を描いたヒューマンドラマ。『私が15歳ではなくなっても。』あむ【おすすめ漫画】

『私が15歳ではなくなっても。』

「気持ち悪い」の言葉が中年男性とJKの性を破壊する

現実が厳しくて、精神的ストレスが多くて、苦しみと鬱屈の中日々暮らしている人物……と書くと「かわいそう」という言葉がすぐに出てくると思う。しかしここに「性欲であふれている」と一文加えられると一気に言葉に詰まる。それが中年男性となると「気持ち悪い」とすら言われるかもしれない。苦しみの度合いは同じなのにね。

この作品は家庭での行き場のなさに追い詰められ、しんどい仕事を繰り返す日々の中ですごす40歳の冴えない男性・岩下の物語。愛していた一人娘は汚い目で見るようになり、妻はお金お金と責めてくる。仕事はハードでいつになっても終わらない。愛想笑いと殺した感情が悲しい。

彼は15歳の少女シイナに夜の公園で声をかけられる。どうやらパパ活の相手を間違って、話しかけてきたらしい。なのに彼は日々の苦しみと性欲の混乱で、ついお金を払って偽り、彼女について行ってしまう。

その後心が落ち着いてウソだと言ったものの、シイナは彼の名刺を既に持っていた。

「これから私が呼び出すたびデートしてください いつでもどんな時でも」「岩下さん不満や欲望が溜まって私に声を掛けたんでしょう? じゃあその気持ちに身を委ねてみたら 案外岩下さんが望んだ人生にたどり着けるかもしれませんよ?」

そう語って別れたシイナこと永椎(ながしい)は、かつてネットで脱衣配信をしていた過去があり、それが元で学校で激しいいじめにあっている。

岩下の描写は見ていて息が詰まる。永遠に終わらないんじゃないかという、働いてお金を家に入れて気持ち悪がられる生活は、哀れな日本男性の姿だ。ただ彼の性欲がグロテスクに描かれているから、この作品は感傷的にならず読者の感性を揺さぶってくる。15歳のシイナの香りが鼻に入って「雌」感に脳が弾けるイメージ。耐えきれずトイレでオナニーをしているところを娘に察せられるシーン。シイナに会わないように耐えるかわりにセーラー服のコスプレ風俗で発散する場面すらある。

男だもの、と性欲との葛藤に共感できる人もいると思う。一方で純粋に彼の性欲に嫌悪感を抱く人もいてしかるべきだと思う。シイナ目線での男の描写が入ることで、圧倒的に作品は男性の性欲への「気持ち悪さ」に針が振り切れる。

シイナがパパ活する相手は汚らしいおじさんばかりだ。中年男感がベタベタに塗り込まれているので、どうにも生理的嫌悪感が先走ってしまう演出が多い。シイナが中学生の時の露出配信では、コメント欄で「お前の価値、500円!w」のような少女の性をばかにする嘲笑も飛んだ。岩下を無理やりフェラしようとしたときは、勃起した男根のグロテスクさに嘔吐もしている。

とはいえ中年男性側にちゃんと若い子への性欲があることを描くのは、誠実な視点だろう。40歳の男性が女子高生に対して完璧に性欲を持たず大人を演る、なんてそうそうない、動物的本能だ。15歳少女側が大人を気持ち悪いと思いながらも、恋心とか皆無でお金と自己肯定感のために必死になるのもリアル。汚いがゆえに、純粋な表現だ。

どう転んでもまっとうにはいかなさそうなこの物語。岩下がバレた時どうなるのか、シイナのいじめはどうなるのか、ふたりはセックスして犯罪を犯してしまうのか、など怖さばかりが先行してしまう。しかし二人の思いと性欲と拒絶感は不器用であるがゆえにまっすぐでもある。幸せではない性ゆえの破滅も、あるいは哀しみから脱出するための努力も、どちらも見てみたい。

中年男性とJKの、周囲の「気持ち悪い」という視線との戦い、あるいは逃避の先は真っ暗闇だ。

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たまごまご

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