2021.12.15

友達になった邪龍の少女は、とても優しくてだけど哀しい日々を送ってきた子でした『300年封印されし邪龍ちゃんと友達になりました』八木戸マト【おすすめ漫画】

『300年封印されし邪龍ちゃんと友達になりました』

友達になった邪龍の少女は、とても優しくてだけど哀しい日々を送ってきた子でした

タイトルの通り異世界の龍が女の子になって家にやってくる、という異文化交流漫画なのだが、このスタイルの作品で「やってきたのが少女の場合、なぜ物語構造上少女である必要があったのか」という理由はそこまで深く必要とされないことが多い。かわいさは正義なのだから、語らないほうが粋なこともある。

ただこの作品は、やってきた竜が女の子であることにしっかりとした理由付けが有る。しかもそれが物語の根幹になっており、キャラクター性の大きな骨子になっている。女の子じゃないと成立しない作りにしたことで、ほんわか日常コメディとハードなファンタジーを両立させているのだ。

ぼっちの少年陽太は、つい出来心で伝説の邪龍を召喚してしまう。さすがにやばいと焦るが、邪龍いわく封印から解かれた事自体が対価であるゆえに、願いを叶えようとまで言い出す。陽太の願いは「友達が欲しくて」

「わかるーっ」とボロ泣きする邪龍。邪龍の名はムム。ふたりは「めっちゃ普通」に友達になった。友達との距離感がわからないふたりの、手探りの仲良しライフがスタートする。

ディスコミュニケーションで苦しむもの同士の、初めてのコミュニケーションの物語。陽太もまた学校の周囲の人間に対して接し方がわからず、孤独で苦しんでいた人間。何もかもが新鮮で常に楽しそうなムムがべたべたくっついてくることに困惑しつつも、彼自身もムムのことを大切に思い、助けてあげたいと親身になっていく。ふたりとも真剣に相手のことを思いあっている姿は純粋すぎて、正直泣けてくる。

ムムの発言がピュアで素敵だ。

「ヨータの才能とっ 友が欲しいという我らの願いだけでっ 我を召喚してみせたのかっ!? こんな奇跡があるのだなっ!?」「我を喚んでくれたのがヨータで良かった…!」

大切に思いあえる友達ができることを「奇跡」と呼ぶ彼女のことが、読み進むたびに愛しくなってしまう。それを聴いて泣いてしまう陽太のことも。

ただこの作者は一旦距離を置いて冷静に状況を描くことに長けている。ぼっち同士の共依存の感情論に傾きすぎていないため、一旦俯瞰して関係を見直すシーンがいくつか入る。

まず邪龍扱いだったムムの今の姿。ここは実際に読んでみてほしいのだが、かなりあちこちに傷が残っている。彼女の性格ゆえのものであり、今までの痛みであること、あまり語られない封印されていた時のことを暗に表現している。けれどもそこを掘り返しすぎず、あくまでも心を埋め合うようなふたりの「友達」関係を描いているので、読者側は仲が良くなればなるほど、彼女の痛みをより深く感じられる仕組みになっている。

またふたりきりの部屋から出ない友達関係は、危険をはらんでいることも別のキャラクターの口から告げられている。陽太は人間だから社会の中で生きる選択肢がたくさんある。しかしムムには陽太が世界の全て。依存関係を美しいものと描かず、むしろ閉じた空間性は問題があると直接切り込んでいるのは、人間関係を描く作品としてとても誠実だ。

このあたりも含めて、バランス良くふたりの関係を描いてくれそうな信頼できる作品だ。そしてふたりのお互いへの優しさが無償のものであるため、良いさじ加減で幸せになるであろう展開も期待できる。

1巻では後半から大きな変化が生じ、友達の距離感も大きく変わりしはじめ、コメディ要素とドキドキ要素も増えてくる。ふたりはそれぞれの感情に向き合えるかどうかも楽しみにしながら、ピュアすぎるムムのコロコロ変わる表情のかわいさを楽しもう。

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たまごまご

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