2021.12.30
地球の危機が動物の“カワイイ”で吹き飛ぶ、SFコメディ!『カワイスギクライシス』城戸みつる【おすすめ漫画】
『カワイスギクライシス』
本日は地球の危機が動物の“カワイイ”で吹き飛ぶSFコメディ、『カワイスギクライシス』を紹介しよう。
広大な銀河を勢力下におさめ、多くの星々を支配するか滅ぼすか胸先三寸で決めてきた宇宙帝国アザトス。いま、その冷徹なまなざしは我らが地球にも向けられていた。
帝国からみて、地球の文明レベルは低い。役に立たないなら滅ぼすか? いや、どんな星でも何かしら有益な資源や情報というものはある。念のため調べてからだ。
そこで地上に送り込まれたのが、調査員である宇宙人女性、リザ・ルーナ。
日本という国の、とある街角に降り立ったリザ。手始めに飲食物の程度を知るため目についたカフェへ客として潜入。そこで彼女は宇宙帝国にとって未知の存在を見つけ、すさまじい衝撃を体験する。
柔らかそうな体毛。しなやかな身体つき。脳を溶かしそうなほど甘い鳴き声。
過去に観測されたことのある数十兆の宇宙生物すべてを凌駕した魅力を放つ、その存在。
それは、猫と呼ばれる動物種であった!
「可愛い…可愛すぎる ありえない……生物としての限界を超えている…!」
うっかり入った店が猫カフェだったばかりに猫ちゃんたちの強烈な癒しパワーにハマってしまうリザ。ぷにぷにの肉球を見ただけで血を吐いて気絶するほど仕上がってしまった彼女には、地球滅ぼすべしの報告などもうできない。
しかも。地球にはペットとして猫に匹敵する人気を誇る犬をはじめ、ひとの心をわしづかみにする生物が他に何種類もいるらしい。恐ろしい、恐ろしすぎるぞ地球の“カワイイ”!
かくして、調査を進める名目で犬猫その他とのふれあいを堪能するリザの生活がはじまる。
猫カフェの店員やペットの飼い主たちと交流し、やがて自らは捨て猫を保護して家族に迎える実体験を積み……。ついには同僚たちも加え、調査団はどんどんほのぼのペットライフを満喫していくことになるのだった。地球はきょうも“カワイイ”に救われる!
というわけで、物騒な侵略宇宙人が地球の動物にメロメロになるさまが楽しい本作。我々が犬猫を可愛いと思うポイントを的確に抜き出した描写がいいのはもちろんだが、それに対するリザたちのリアクションこそが最大の見どころだ。
「猫のことを考えると他の事がどうでもよくなる、思考回路が猫に支配される」
など、一見すると大げさで正気を失ったような言い回しでも、犬猫を飼って心底から可愛がっている人間からすると「そうそう、そのくらいカワイイよな!」と親近感が沸く表現が随所にちりばめられている。
つまり、動物たちに魅了される幸せで脳が沸騰するキャラクターを最大値として、我々自身がどのようにワンちゃんニャンちゃんを可愛がっているのか、その心象を戯画的に再確認できる寓話のような作りを備えているわけだ。
もちろん、実際にはペットの飼育はただ愛玩するだけでは済まないもの。
大前提として、可愛がる相手は生き物だ。命をすこやかに保ってやるためには絶えまない体調管理が必要で、お金も手間もかかる。家の中は汚れるし、思い通りの行動をしてくれるとは限らない。そもそも、懐いてくれるかどうかの保証さえないのだ。
それをふまえた上で、そういう苦労を込みで関係を結ぶ全体的なよろこびがあるよね……と確認するエピソードもちゃんと挟んであるあたり、誠実でそつがない作品だ(第24話「アコガレノ」)。
そんな本作は集英社「ジャンプスクエア」誌で2019年から連載、Webでは2021年夏から「ジャンプ+」で配信が進行中。
今から追うなら、Webで読めるところまで読んでみて、先が気になれば単行本で最近の回まで進むのがいいだろう。現在(2021年12月時点)コミックスは最新が第4巻、1巻あたり12編収録されて第48話まで収録されている。
©城戸みつる/集英社