2018.04.11
【日替わりレビュー:水曜日】『海咲ライラック』険持ちよ
『海咲ライラック』
田舎の島での年の差恋愛は、近すぎて切ない
年の差恋愛ものの美味しいところが、田舎の景色とともに余すところなく詰め込まれている作品。
小さい島で民宿を営み始めた、いまいち冴えない30歳の男性・井上風太。隣の喫茶店に住んでいる15歳の中学3年生・葉月海は、とても真面目できっちりした女の子。彼のだらしなさを見てイライラが募り、ついつい世話を焼きに行ってしまう。呼び名は「おじさん」。
海は自分の中に、特別な感情が生まれたことに気づいてしまう。
序盤はぱっとしない、デリカシーのない男性にしか見えない風太。回を重ねるごとに、やさしいのみならず、非常にしっかりした芯の持ち主なのが見えてくる。ある理由があって島にやってきた彼は、人に流されることがあまりない。妙齢の女性と話していでも、常に笑顔で一線をわきまえつつ、親身になって接する紳士っぷり。海に対しても、常に大人としての対応をし続ける。
「私だって分かんないもん!! 理由とか理屈とか考えれば考えるほどおじさんの事好きになる訳ないのに、一緒にいるとドキドキするんだもん!! しょうがないじゃん!!」
海は「好き」を自覚してから、まっすぐなアタックを繰り返す。まずは彼が迷惑にならないように配慮。でも自分のあふれる思いは嘘をつけないから、正々堂々と言葉で伝える。風太が大人だから付き合えない、というのはきちんと理解し、わきまえる。
「おじさんの迷惑にならない様にしないと……中学生と…って、おじさんが悪者になったら嫌だし……」
なんせ田舎の隣同士、告白したあとに気まずくなっても、毎日顔を会わせなければいけない。一旦距離を置きましょう、ができない。他の男性に目を向ける、というのも人が少ないのでできない。
「おじさんの事好きでいちゃいけないって頭ではわかってるのに……おじさんと一緒にいるだけで、嬉しくてドキドキするの」
3巻では、海が大きな決断をする。それは少女が女性になるための、これからの決心だ。今まで、大人だから触れませんし恋愛対象にしません、みたいなムーブをしていた風太が、今度は自分の気持ちを確かめる番だろう。
彼はあまりにもいい男すぎるので、ちょっとくらい大人じゃなくなってもいいんじゃないの、と思っていたら3巻ラストでとんでもないことに。
この時の反応がまた海ちゃんいい子すぎて……だからこそ、手が出せる気がしない。
答えを一方向にしないさじ加減が巧みな作品です。
©険持ちよ/竹書房