2018.04.15

【日替わりレビュー:日曜日】『図書館の大魔術師』泉光

『図書館の大魔術師』

最近流行りの異世界転生作品や、最初からチートな能力を持った主人公が俺TUEEEEな作品。おもしろいけど段々どれも展開が似てきたように感じてちょっと食傷気味……。そんな人にこそぜひ読んで頂きたい作品が、この『図書館の大魔術師』(正式には、『圕の大魔術師』)です。

書物が金と同様の価値を持っていた時代。小さな村で姉と2人、貧しい暮らしをしていた少年・シオ=フミスは本の都「アフツァック」に憧れを抱いていたが、でもそれは自分が手の届かない夢の世界だと思っていた。そんなある日、「アフツァック」の「中央図書館」につかえる司書・『カフナ』の一行がやってきた。そこで、ふとしたきっかけでシオは、1人の司書と交流を深めることとなり、彼の運命は大きく動き出していく───。

貧しく、人種とその見た目の違いから差別を受けていた主人公が、生来の好奇心の強さと垣根のない心優しさを土台に、勤勉な努力によって自分の道を切り開いていく、という圧倒的王道ストーリーでございます。

おいおい、それこそよくある話だろ?となるのはまだ早い。この王道的な枠組みが、様々な要素によって完全なオリジナルな作品として昇華されていることがポイントなのです。

まず、特筆すべきは綿密に編み込まれた舞台や造形設定

キャラクターの頭の布飾り一つとっても細かく階級を示していたり、朽ちて暴走してしまった魔術書の修復の方法や、現実世界に影響を与える魔術の扱い方など、全体的に細かく設定資料が用意されてるのではと思うくらい、しっかりと世界観が形成されています(コミックスの表紙を外せば設定が少しチラ見せされているので、それもお見逃しなく!)。

次に、この設定を無駄にすることなく描ききっている画力の高さ

作者の泉光先生は過去に『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のコミカライズや、『7thGARDEN』(現在休載中)という作品を描いてこられており、これらの作品でもその腕前は話題を呼んでいました。本作には、『あの花』でのキャラクターの繊細な心理描写、そして『7thGARDEN』での夢が広がるファンタジー表現という、過去作での経験がうまく活きているように感じられます。

オリエンタルで緻密な衣装やプロップの描き込みや、心を揺さぶる主人公の感情の揺れ動き、まるで映画を見ているかのような緩急付ける大胆なコマ割り。この確かな腕前によって、読み手が変に作品に対して穿った見方をすることなく、童心に返ってわくわくどきどきしながら読むことのできる、力強い説得力が与えられているのです。

そして、作品を彩る、魅力的でかわいいキャラクターたちが素晴らしい!

愚直で健気で主人公・シオはもちろんのこと、司書「カフナ」の面々や、物語の脇を固めるサブキャラクターたちが、それぞれ表情豊かに紙面上で動き回っています。

中でも重要なポジションである「カフナ」のメンバーは個性的で、子持ちのお母さんで普段は穏やかだけど怒るとめちゃくちゃ怖いアンズ=カヴィシマフ、真面目で寡黙だけど仕事熱心で能力値の高いナナコ=ワトル、妖精のように小さく羽が生えていて可愛らしいけどぎゃーぎゃーとかしましいピピリ=ピルベリィといった三者三様のキャラ設定。

そして特に、物語のキーパーソンであるセドナ=ブルゥが、良いキャラしてるのです。同僚たちが少しあきれるくらい「クサイ」けれどアツい台詞をばしばしと投げかけ、彼女によってシオは自分の本当の思いと向き合うきっかけとなり、お話をごろんごろんと前へと転がしていってくれます。

サブキャラでは、個人的には弟を学校へ通わせるために献身的に働くお姉さん・ティファ=フミスがツボったのですが、シオと違って、褐色の肌で耳も他の村人と同じような形をしているというところも気になるところ。シオが本当はどういった境遇の生まれなのか、何か謎がありそうで想像がふくらみます。

もう一つ全体的な伏線として怪しそうなのが、クレジット表記にある原著『風のカフナ』という作品と、著者・ソフィ=シュイムという名前。

こちらネット上でも目利きのマンガフリークスの皆さんが書かれている通り、いくら探してみても出てこない作品なのです。つまり、現実的にはこのクレジットはフェイクだけど、本作が「物語の主人公に憧れたシオが、本当に”物語”の主人公になった」ことにより紡がれた作品である、ということを示唆しているということなのかもしれません。

まだソフィ=シュイムというキャラが本編中にもでてきてないので明言はしきれませんが、今後の展開の中でも深く効いてきそうな興味深い作りですよね。


いかがでしょうか。少しでもこの作品の魅力をお伝えできたのなら幸いですが、気になった方にはこの作品はぜひ、電子ではなくフィジカルの「紙の本」で買って頂くことおすすめします。そうすることで、「本」を愛し護ろうとする登場人物たちの思いと少なからずリンクし、よりこの作品へと没入できる糸口ともなるかなと思いますので。

第一巻はまだプロローグにすぎません。今後、広く知られることになるであろうこの作品を、今からチェックしておきましょう!

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