2018.05.09

【まとめ】淡々と進むからこそ味がある。奥深きストーリー4コマの世界!

いま、あなたの近くにマンガの単行本があったら、1ページあたりのコマ数を数えてみてください。だいたい5コマくらいではないでしょうか。

対して4コママンガは、1ページに2本のエピソードが載るのが通例なので、8コマもあることになります。この密度を活かしてストーリーものを描いたら面白いのでは? と、誰かが考えて生まれたと思われるのが、ストーリー4コマというジャンル。

今回はそんな、続きが気になってページをめくる手が止まらなくなる、ストーリー性が高い4コママンガをご紹介いたします。

『となりの魔法少女』

魔法で作られたものは、決して”本物”にはなれないんだよ

あるところに、ひとりぼっちの魔法少女がいました。
さみしかった彼女は、魔法で「友達」を作りました。
魔法を解いたとき、彼女の周りには誰もいなくなりました。

過去の過ちから二度と友達を作らないと決めた、「魔法少女」のあき。芝居がかった話し方が印象的な、「理屈少女」のウサ。これといった特徴がない、「普通少女」のけぇ。
『となりの魔法少女』は、3人の少女たちが、ときに衝突しながらも少しずつ絆を深めあっていく青春グラフィティ。

人との関わりを避けてきたあきは、なんでも魔法で解決しようとする癖があります。愛想笑いすらうまくできないため、魔法で自分の「笑顔」を作ってしまうほど。
ウサもまた、別のベクトルで人との接し方が極端に下手です。言えば余計なトラブルを招くと分かっていても、口から出る言葉を止められない。

極めつけが、交通事故にあって眠り続けているウサの弟を魔法で目覚めさせようというあきの提案と、それに対するウサの返答。あんなにドラマチックで、残酷で、胸が苦しくなる4コママンガの1ページは、たぶん二度とお目にかかれないでしょう。
あきとウサ、どちらかを責める人はいないはずです。良かれと思った行動が裏目に出たり、感情のままに発した言葉で大切な人を傷つけてしまったり。誰もがきっと、同じ経験をしているはずだから。

敵と戦ったりはしない。かわいい衣装に変身したりもしない。この作品は、「魔法少女もの」ではありません

不器用で、臆病で、だけどさみしがりや。あなたのとなりにもいるかもしれない、どこにでもいる普通の女の子のお話なのです。

『黒猫の駅長さん』

当たり前のように身近な存在だと、かえって気付かない事ってありますよね

集落の消滅によって、無人駅となった駅。1日の平均乗降客は1人以下。
長い年月を生きて化け猫になった黒猫は、誰もいなくなった駅舎で、駅長の真似ごとをして暇を持てあましていました。

そんなある日、高校生の美琴が駅の近くに引っ越してきたことから、止まっていた時計が動き始めます。
彼女は「見えないものが見える」らしく、黒猫を本当の「駅長さん」に任命。次第に美琴は駅長さんと心を通わせるようになり、自身の悩み──津波で母親を失ったこと、父親の再婚を受け入れられないこと──をポツリポツリと打ち明けていきます。

九州南部の架空の秘境駅を舞台として、駅長さんのモノローグを中心に淡々と進んでいく展開が印象的な作品。
駅長さんは、美琴の力になりたいとは思っているものの、率先して家庭問題を解決するために奔走したりはしません。ただ、彼女の話に静かに耳を傾け、最小限のアドバイスをするのみ。

ですが、誰にも悩みを相談できなかった美琴には、そう接してくれる相手が何よりも必要だったのでしょう。
震災の日から止まっていた美琴と父親の関係も、少しずつ正しい方向に向かっていきます。各駅停車のように、ゆっくりだけど、確実に。

こんなにも抑揚がなく、だけど単調にならずストーリーに没頭できる4コマは今までに出会ったことがなかったので、初めて読んだときはおどろきました。

作者の山口悠先生は、これが商業誌デビュー作品。だからこそ、4コマの「お約束」に縛られずに自由に描けたのかもしれません。

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『男爵校長』

冒険の準備を始めよう。未来は美しい荒野だ

ギャグ4コマの鬼才として名高いOYSTER先生ですが、著作の中にはギャグ以外にも、萌え、SF、ラブコメなど、様々な要素が盛りこまれています。
「男爵校長」シリーズは、それらの要素がすべて詰まった、作者の最高傑作といえる作品です。

「バキ」シリーズのように、『男爵校長』『男爵校長DS』『男爵校長High!』と、2巻区切りで改題されていくのですが、その度に作風もガラリと変わるのが特徴。

『男爵校長』は1話完結型の、女子高生5人組の日常を描いたギャグ4コマでした。しかし『DS』になると、「返事をする月」という謎のキャラクターの登場により、途端にシリアスな展開に
その謎が解明された『High!』でも、ヒロインたちの「卒業」を意識した、どこか切ないストーリーが紡がれます。

また、タイトルと連動するようにヒロインたちも進級していき、その内面にも変化が見られるようになります。
何も考えず、ただ友達と遊んでいればよかった1年生(『男爵校長』)。将来に漠然とした不安を感じるようになる2年生(『DS』)。まだ迷いつつも、未来に向かって歩き始める3年生(『High!』)……。

おバカ、優等生、不思議ちゃん、大和撫子、ミリオタ。
最初は記号的だったヒロインたちは、少しずつ「女の子」らしくなっていきます。特定のキャラに感情移入したり、「俺の嫁」として愛するよりも、「成長したなあ」と、親のような視点で見守りたくなるのです。

この作品は、「マンガのキャラクター」だったヒロインたちが、「ひとりの人間」として広い世界に飛び出していく物語だったのかもしれません。

『わたしのお嬢様』

親愛なる──わたしのお嬢様へ

ファミリー4コマの描き手として知られる樹るう先生ですが、デビューからしばらくの間は、成人向けマンガ誌のいわゆる「箸休めマンガ」も描かれていました。

特に『出たとこファンタジー』は、ストーリー性の高さもさることながら、内容や連載時期から「元祖萌え4コマ」のひとつにも数えられています。ただ、少し古い作品なので、今回は比較的単行本が手に入りやすい『わたしのお嬢様』を紹介させてください。

本作の舞台は、産業革命前後のロンドン。中流階級の家で働くメイドのミリーと、8歳にして株取引に手を出すおてんばお嬢様のメリーが繰り広げる、作者いわく「なんちゃってヴィクトリアンホームコメディ」
とはいえ、時代考証はしっかりしていて、当時の人々の生活様式や価値観も知ることができます。

ミリーと、メリーの家庭教師であるステア先生の恋路。放浪していたメリーの兄・アーサーの帰還。ミリーの出生の秘密。
ミリーとメリーは、数々の事件に巻き込まれながらも、持ち前の(主にメリーの)行動力と機転で道を切り拓いていきます。しかし、時代の流れには逆らえず、次第に戦争の足音が近づいてくる──。

タイトルの「お嬢様」は、もちろんメリーを指していますが、同時にミリーのことでもあります。冒頭で引用したセリフも、メリーからミリーに宛てられたもの。どの場面に出てくるかは……ぜひご自身の目でお確かめください。

これは、階級差別や男尊女卑の考えが色濃く残っていた時代を、自らの正義を信じて気高く生き抜いた、ふたりのお嬢様の物語

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4コママンガは、基本的にコマの形や大きさが決められているわけで。当然、普通のマンガの方が自由度は高いです。
しかしながら、コマが一定だからこそ物語の内容そのものに集中できたり、たまに大ゴマが使われたときのインパクトが大きくなるという利点もあります。

今回ご紹介したのは、いずれも4コマ形式ならではの表現が活かされたストーリー作品ばかり。普通のマンガとはひと味違った読みごたえを感じてください。

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ましろ

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