2018.05.10

【日替わりレビュー:木曜日】『R-中学生』ゴトウユキコ

『R-中学生』

人の性癖を笑うな

昨年読んで脳天を撃ち抜かれた小説のひとつに、『夫のちんぽが入らない』がある。正直、その刺激的なタイトルに「なんだかそのまま釣られてしまうのは悔しい」と手に取るのをためらう気持ちがあった。少し、なめながら読み始めた記憶がある。

読み始めて数ページで、私は数分前の自分を恥じたのであった。その圧倒的な文才に、もはや嫉妬すら覚えた。諦念を感じさせる、一見凪のような穏やかな文章の底に、ひたひたと漂う作者の怒りのようなものを感じてゾッとした。

売れるのは当然だった。しかし、それがコミカライズ、実写映画化、と売れ筋の王道ルートをそのままたどっていくのは、どこかもったいないような(つまらないような)気がしていた。その必要ある? と。

しかし先日、コミカライズの作者が発表されたことで、私は直前の自分を恥じた。人はなかなか学習をしない。

ゴトウユキコ先生の代表作といえば、『R-中学生』『水色の部屋』が挙げられるだろう。いずれも、ひとくくりにはできない、人間それぞれの「性癖」を素晴らしくリアルかつ切実に描いている。

特に『R-中学生』は、第1話から女子の使用済み生理用ナプキンに発情する男の子の話というぶっ飛び具合で、人によってはここで抵抗を感じる人もいるかもしれない。

しかしこの作品の素晴らしいところは、女装が好きな男の子もいれば、可愛い教育実習生に惚れてしまうエロガキもいて、同じクラスメイトとしてアブノーマルからノーマルまでそれぞれの性衝動を見事に描ききっている、という点だ。
露悪的にアブノーマルな性癖を披露するのではなく、好きでそうなったわけではないのにという苦しみも、自分ではコントロールしきれない悦びと孤独も、全てが描かれている。

また、コメディ調のストーリー運びの中で、時折ゾッとするほど残酷な言動が挟まれていたり、(不器用ながらも)他人とわかりあう暖かさの感じる場面があったりと、作品としての味わいは想像以上に深いはずだ。

他人から見たら、決して立派ではない、恥ずべきだと言われる性癖をもっているかもしれない。でも、私たちのそれを糾弾する権利はあるのだろか? 人の性癖を笑うなよ、という言葉が浮かぶ。たった3巻ではあるが、『R-中学生』は自分の性衝動を恥じてしまう読者を勇気づけるには十分の物語が詰まっている。

『夫のちんぽが入らない』のコミカライズがゴトウユキコ先生だと知ったときに思い出したのは、『R-中学生』を読み終わったときの感情だった。それは、当小説を読んだときのそれとだいぶ近いものだったと記憶している。

『R-中学生』が「人の性癖を笑うな」なら、『夫のちんぽが入らない』は「人の生き方を笑うな」だ。そう思ったら、今回のコミカライズでゴトウユキコ先生が描くというのはもはや必然のように感じてしまった。……勝手な解釈だとはわかりつつも。

ちなみに、ゴトウユキコ作品はすべてが良い。出ているもの全てが良い

『水色の部屋』は前作とは一転暗い気持ちになる作品だが、その分、生きていく上での性衝動や孤独により深く切り込んだ傑作。『きらめきのがおか』は夢を追う人・諦めきれない人にとってきっと救いになる、ゴトウユキコ先生の新境地作品(エロがないという点である意味異色作)、“萌え”と“エロ”を気楽に楽しみたいのなら『ウシハル』で癒されたい。

また、フィールヤングで読み切りだった『いおりとちはる』は、5月12日に劇画狼の「エクストリーム漫画学園」で再掲載が予定されている。

5月21日の週刊ヤングマガジンがされるまでの間、まずはゴトウユキコ作品を楽しんで待つのもいい。『夫のちんぽが入らない』をゴトウユキコはどう解釈してマンガとして描いたのか、ただただ楽しみで仕方ない。

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この記事を書いた人

園田 もなか

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