2018.05.11
【日替わりレビュー:金曜日】『シェアハウス金平糖北千住』ふじもとゆうき
『シェアハウス金平糖北千住』
人気テレビ番組「テラスハウス」登場前後から、一気にシェアハウスを舞台にしたお話が増えた印象のある少女マンガ界。
単純にシェアハウスを舞台にしているだけでは、もはや差別化は図れない……と(考えたかどうかは知りませんが)、さらにもうひとネタを加えたのが本作『シェアハウス金平糖北千住』です。
白泉社「花とゆめ」系で高め安定なのが、赤ちゃんがメインで登場する作品。
『赤ちゃんと僕』をはじめ、長期連載となった『LOVE SO LIFE』、またアニメにもなった『学園ベビーシッターズ』など、錚々たるラインナップ。そう、本作は”シェアハウス”に”赤ちゃん”という、鉄板設定を融合させた欲張りな物語なんです。
赤ちゃん付きのシェアハウス
主人公は、島育ちの女子高生・青島千波。高校入学を機に上京し、格安シェアハウスに入居することになるのですが、そこは「赤ちゃん付き」という特殊物件で……というストーリー。
北千住という地名からも分かる通り、洋楽のBGMが流れてくるようなシャレオツな雰囲気でおくる物語ではありません。どちらかというと、アットホームで人間臭い、ハートフルな内容となっています。「赤ちゃん付き」というのは読んで字のごとくで、大家さんが赤ちゃんを預かっており、一緒に生活する必要があるというもの。家賃が格安である代わりに、みんなで赤ちゃんの面倒を見るという、ちょっと変わったルールが存在しています。
個性的な住人たち
ヒロインの千波は、ショートカットが良く似合う、純粋で元気いっぱいな島娘。慣れない都会生活に不安を覚えつつも、弟の面倒で培った子供を喜ばせるテクニックで、赤ちゃんともすぐに打ち解け、すんなりとシェアハウスに溶け込んでいきます。
赤ちゃんの冬太郎は、言葉も少しずつ話せるようになってきたぐらいの男の子で、極度の人見知り。大家さんとは親子ではなく、諸事情で預けられているのですが、その真相は明かされず、物語に少しだけ暗い影を落とします。
冬太郎を預かる大家の仁平さんは、シェアハウスを営みながら小説家もしているという変わり者。住人の中では一番「個性的」という言葉が似合うような、独特の雰囲気を放つ人です。
そのほか、千波と同年代の男の子が2人。ぶっきらぼうな物言いが特徴の壱星と、柔らかく優しい雰囲気の宝は、実は某アイドル事務所に所属してデビューを目指しているという、芸能人の卵。同い年ということもあり、この2人との絡みが最も多くなります。うん、これはロマンスの匂いしかしませんね。そして社会人の男女、すず子と洋平を入れて、計7名で暮らしを共にします。
社会人から赤ちゃんまでと、普通のシェアハウスものよりも幅広い年代で構成されているため、色々なことが起こりそうな予感がしますよね。
大人数はお手のもの
作者のふじもとゆうき先生というと、両親を亡くした5人兄弟を描いた『ただいまのうた』や、商店街の幼なじみ6人の姿を描いた『キラメキ☆銀河町商店街』など、たくさんのキャラクターが登場するお話を得意としているマンガ家さんで、今回のシェアハウスというフォーマットはまさにその持ち味を発揮するにはうってつけの舞台設定と言えるでしょう。
キャラクターが多くなるとどうしても土台作りに時間がかかり、面白みが出てくるまで時間がかかってしまう傾向があるのですが、本作は1巻にして既に泣けるエピソードもあり、そんな心配は無用でした。
家族と離れて暮らす寂しさや、家族がいない辛さ、夢に向かってひたむきに頑張る姿や、落ち込んでいる時に支えてくれる同居人の温かさなど、描かれるエピソードはどれもがちょっぴり気恥ずかしくなってしまうぐらいに真っ直ぐで、シンプルに涙腺を刺激してきます。
ちなみに現時点で恋愛要素はかなり薄めですが、おあつらえ向きなシチュエーションですし、これからその辺りも描かれてくることでしょう。優しさと温かさに溢れたハートフルストーリーをじんわりと味わいたいという方に、是非ともオススメしたい一作です。
©ふじもとゆうき/白泉社