2018.05.13

【2018年4月】マンガ家が選ぶ 今月の注目! 新連載マンガ

毎月100本以上の新連載が始動しているマンガ戦国時代とも言うべき昨今。その中でも、マンガ家たちが注目した作品をピックアップしていく本連載。

今回は、2018年3月19日~2018年4月22日の間に始まった新連載マンガから「マンガ新連載研究会」(マンガ家による勉強会サロン)が着目した作品を紹介いたします。

『ロッキンユー!!!』

高校部活バンドマンガです。「なんとなく怖い」「パリピっぽい」というバンドマンに対する一般的なイメージを出だしで振りまいておいてからの……

「ロックなんかやってる奴、キモいに決まってるだろ!!!!」

で刺しに来た作品です。「ロックやってるやつ、キモい」、ここを言語化したことに本作の一つ目の強みがあり、「新しいロック像」「新しいバンドマン像」を読者に提示しています。

それに、この提言は非常に納得できるんですよね。本作で演奏をしているロック研究会はそもそも一人しかいない。バンドの体裁を取れていない。でも一人でギターを音量最大でかき鳴らして、叫ぶように歌って、みんなを呆然とさせる。これはロッカーの態度として非常に正しい。「ボーカルとギターとベースとドラムが揃ってないからバンドできない」とか言ってるようじゃロックじゃないですからね。

しかし、この行為は明らかにキモい。だから本質的には、やっぱりロックなんかやってるやつはキモいわけです。芸術は高尚じゃないし、スポーツマンの精神は別に健全じゃないし、ロッカーはキモいんです。この作品はみんなが薄々思っていた「本当のこと」を言ってくれた。

そして、二点目。本作の強みは音楽描写です。当たり前ですが、マンガでは音が鳴らない。音楽を描写するのは大変なんです。「~♪」みたいなのを飛ばしておけば、一応「演奏」は表現できるけど、音楽がメインのマンガでそれをやるのはあまりに芸がない。だからみんな色んな演奏表現を試すんですけど……

本作の演奏表現は、そこにまた新しい可能性を提示してきました。『ロッキンユー!!!!』の提示する新しい音楽表現を皆さんもぜひご確認ください。

試し読みはコチラ!

『GODZILLA 怪獣惑星』

今回はジャンプ+からもう一作。骨太、かつ、展開の強烈な作品です。

ゴジラなど怪獣が多数現れ、ピンチに陥った地球人類の前に、二種族の宇宙人が手助けに来るという超展開。しかし、二種族の宇宙人もゴジラに敗北し、地球人を交えて三種族で宇宙を放浪するという流れです。こんな濃密な展開が一話の中で描かれるのです。マンガ作品としては異例の構成。

よく言えば骨太で超展開、悪く言えば一話なのに情報量が多すぎます。キャラも多く、展開も目まぐるしく、SF的情報も過載積です。通常のマンガの一話フォーマットからはだいぶ外れた作品と言えます。もちろん、それゆえにこそ「新鮮さ」があり、今回、ピックアップしたのですが。

しかし、これはおそらく「ゴジラ」という強いキャラクターがあってこそ成り立つこと。通常ですと、この情報量の多さは読者の離脱を招きかねません。おそらく本作のモンスターが、われわれの誰も知らない「モンスターX」であれば、マンガ作品としては成り立たなかった(売上が期待できなかった)と思われます。

「ゴジラ」に対する期待と求心力により、通常のマンガフォーマットを外れても成り立たせることができ、その結果、新鮮な読書体験を与えられた作品例として今回取り上げました。

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『最果てのキャラバン』

なんだかよく分からないけど、惹き込まれる作品です。

マンガは”基本的には”「一話を読んでどういうマンガか分かる」ものが良いとされています。これを専門用語では「企画性が明確」とか言うのですが、しかし、そうではない作品ももちろんあります。

当会がたくさんの新連載作品を読んでいく中で、「一話を読んでもよく分からない作品」はしばしばあり、これは特にWeb連載作品に多い印象なのですが、そういった作品は「よく分からないから二話を読む気にならない」と「よく分からなくて続きが気になる」作品に分かれます。

本作『最果てのキャラバン』は一話を読んでもよく分からず、現在までに公開されている四話まで読んでもなおよく分かりませんが、個人的にはかなり続きが気になっています。
「よく分からないから二話を読む気にならない」と「よく分からなくて続きが気になる」の分かれ目がどこなのか、この点も当会は注視しているのですが、本作に関しては、冒頭部分の、かなり中二力の高い演出が後者へと偏らせたのではないかと考えています。

以前のレビューにも書きましたが、「よく分からなくて続きが気になる」作品には、「よく分からないけれど、なにかすごい謎とか情報とか、未だ明かされない世界が背後に横たわっているんだ」という気配のようなものを感じさせる力があります。そこを感じさせることさえできれば、「よく分からなくて続きが気になる」になるのではないかと、私は仮説を立てています。

本作は冒頭での演出が強く(何を言ってるのかは全く分かりませんが)、ここで「作品世界の背後に存在するなにか大きなモノ」をわれわれに感じさせたのかもしれません。

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『ワンダーカクテル』

ベテラン作家による新連載です。特筆すべきは男性向けのファッション・生活雑誌である「MEN’S Precious」のWeb上にて連載されていることです。

マンガ家が増えてきている現在、マンガ家の需要は企業広告マンガなどにおいて、より増大していくと私は考えています。これまでの当連載でも『コーヒーとボク』『悪魔英語』などを紹介してきました。

『コーヒーとボク』はマンガ家でありコーヒー屋の店主でもある当人の伝記を通じて、コーヒーの魅力を伝える作品です。『悪魔英語』は元となる英語学習本があり、そのエッセンスを使いながら単体マンガ作品としても高レベルに仕上げてきた作品と言えます。
いずれも、コーヒーや英語学習本の、広い意味での「広告マンガ」だと言えるでしょう。

本作『ワンダーカクテル』第一話には大きな盛り上がりや強いドラマ性はなく、「スーツを仕立てることを通じた、暖かい家族愛」的なものを表現しています。本作を読んだ読者は「スーツを仕立てるような生活って、こんな暖かいものなんだな」という感覚を覚えることになるでしょう。

それはファッションなどを通じて「魅力的な男性の生活スタイル」を提唱する「MEN’S Precious」の方向性と合致しています。本作は「広告マンガ」という体ではありません。上品でおしゃれな作品であり、商業主義的なニュアンスは極めて薄いです。それでも本作は、「MEN’S Precious」が読者に対して「啓蒙したい」方向性に合致しており、広告マンガとしても有効に機能しているのです。

「これからのマンガ家が生き残る道は企業の広告マンガだ!」

と言うと、顔をしかめる作家も多いと思います。しかし、広告マンガにしても様々なスタイルがありうるわけで、本作のような商業主義的ニュアンスの薄い作品も、企業の需要と合致するなら「広告マンガ」として成り立つはずです。

広告マンガの多様性の確認、そして、新たなビジネスチャンスの発掘という点から、本作をピックアップしました。

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『えれほん うめざわしゅんショートストーリーズ』

今回、個人的に一番ハマったのが本作。共産主義一党独裁国家のパロディで、日本が非リア充主義の国家になり、リア充どもを物理的に爆発させる(処刑)ようになった社会を描いた短編です。

本作の特徴は、テキスト情報の多さと重厚なパロディ描写により組み立てられた世界観の緻密さであり、独裁国家っぽいディストピア社会をたっぷりのユーモアをまじえながらもハードに描いています。「リア充と非リア充の階級闘争」というギャグっぽいテーマでありながらも、そこに現れる人間模様はリアルで、愛憎の交錯する感情表現も見事です。

しかし、本作の情報量の多さは当会でも賛否両論でした。どうやら情報量の多いマンガというのは、「情報が多いだけでムリ」な層と、「情報はどれだけ多くてもむしろ嬉しい」層に分かれるようです。

一般的なマンガ創作セオリーとしては情報は減らすべきとされていますが(特にセリフやナレーションなどのテキスト情報)、逆にそれが刺さる層もいます。どちらかと言えばリスキーな選択肢ではあるのでしょうが、本作のように緻密な描写で世界観を組み立てるような作品では情報量を増やしていく選択もアリなのかもしれません。

試し読みはコチラ!



以上、100作品以上の中からピックアップした4作+オマケを紹介いたしました。他にも特筆すべき作品は幾つもありましたので、新連載作品に興味を持たれた方は、こちらから色々な作品を読んでみてくださいね。

この記事を書いた人

架神 恭介(@マンガ新連載研究会)

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