2018.06.13

【インタビュー】『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』船津紳平 × 編集フジカワ「"天才"金田一 VS "凡人"犯人の話」

「マガポケ」で連載が始まるやいなや、Twitterで猛烈にバズったマンガがある。

『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』だ。

不朽の名作ミステリーマンガ、『金田一少年の事件簿』舞台裏を犯人視点で描いたスピンオフ作品なのだが、この作品を一言で説明するならば

「金田一の世界をこれまでに無い斬新な方法で切り取ったギャグマンガ」である。

あくまでも凡人な犯人たちの切実な舞台裏がコミカルに描かれていく

マンガを担当したのは過去に『はじめての田中論理』を描いた、船津紳平先生。

そして、プロジェクトを立ち上げたのは、講談社の編集者・フジカワ氏。

一体、どんな奇跡が起こってこのようなマンガが世に出たのか? おふたりに、お話を伺ってみた。

(取材・文:紳さん/編集:コミスペ!編集部)

マンガの反響について

──『犯人たちの事件簿』、めちゃくちゃ面白いです!

フジカワ氏(以下、フジカワ):ありがとうございます。

船津紳平先生(以下、船津):光栄です。

──様々な反響があったと思いますけど、Twitterが特にスゴかったですよね。

船津:連載が始まったその日にTwitterで話題にしていただいて。バズらせてくれたツイートがあるんです。本当に普通の、一般の方のツイートだったのですけど。

フジカワ:マガポケの更新が午前0時だったんですけど、僕が朝起きてTwitterを確認した時には、そのツイートが1,000とかリツイートされてたんです。「ウケた!ヤッたぁ!」って。

それで、すぐにスクショをとって、船津先生にLINEで送ったんです。「先生、ウケてますよ!」って。

船津そのLINEを見た瞬間は忘れられないですね。もう、嬉しくて。

フジカワ:「これは1週間で5,000リツイートくらいいくかも?」と思っていたのが、もうその日の内に10,000リツイートを超えまして。ものすごく嬉しかったですね。

──Twitterでバズった瞬間、どんなことを考えてましたか?

船津:僕はこの時、連載3本目だったんですけど、それまではあんまり上手くいってなくて。このままマンガ家として日の目を見ないで終わるのかなって思っていたのですが、それがこうして話題に…。

フジカワ:そもそもでいうと、このマンガって単行本1冊分だけやって終わるはずだったんです。連載を企画した時からそういう話で進めていました。

そしたら、初日で大反響になって編集部がざわつきまして。マガポケのチーフが「ちょっとこれは単行本1巻で終わるわけにいかなくなった」という話をして(笑)

船津日陰にいたところを、読者の皆さまに引っ張り上げてもらったという感覚でした。今でも感謝しています。

『犯人たちの事件簿』が誕生した経緯

──このマンガのアイディアはどうやって生まれたのでしょうか?

フジカワ:率直にいうと、『賭博黙示録カイジ』のスピンオフ作品、『中間管理録トネガワ』というマンガのヒットがきっかけなんです。

『カイジ』は「ヤングマガジン」で長く続いている人気シリーズなのですが、『トネガワ』がウケたことによって『カイジ』も新たに注目されるという流れが起きていて、すごく良いなと思ってました。

一方、「週刊少年マガジン」にもカイジのように長く続いた作品はたくさんあるのに、あまり『トネガワ』のような斬新な取り組みはできていなかった。

そこで思いついたのが「金田一の犯人視点のスピンオフ」だったんです。

──なるほど。そこに船津氏をアサインしたのはなぜでしょう?

フジカワ:『犯人たちの事件簿』って、金田一という天才に立ち向かう凡人が苦悩する姿を描いたもので、「天才VS凡人」の話じゃないですか。もともと僕は2013年から船津先生の担当をしていたのですが、「凡人を面白く描くのが持ち味だな」と感じていたんです。

船津:計らずとも自分の持ち味を知れて良かったです。(真顔)

──『金田一少年』の原作者である天樹征丸氏、さとうふみや氏の許可が必要ですよね? この斬新なスタイルのギャグマンガの企画をどうやって通したんですか?

フジカワ:とりあえず、船津先生に1話のネームを描いてもらったんですよ。僕はそれを読んだ瞬間、もう爆笑しちゃって。さらに『金田一少年』の当時の担当編集者にも見せたら大ウケで。期待以上の仕上がりに「連載はカタい!」と思ってました。

1話のネーム

それで、原作者の方に許諾をとりに行きました。まず金成陽三郎先生に確認いただいて、その後、天樹征丸先生とさとうふみや先生に見ていただいて。そしたら「よくぞ、こんなくだらないマンガを描いたな」と大爆笑。OKが出たんです。

──本当に面白いですもんね。ちなみに元々、原作ファンだったのですか?

船津:すごく言いづらいことなんですが……TVアニメは見ていたんですが、原作はほぼ読んだことがなくて……

フジカワ:なので船津先生には「時間あるときに読んでおいて」ってお願いしていました。

──えぇ!? そんな感じだったのですか。意外すぎます。

船津:ネームを描くタイミングで読み始めて「あっ、こんなに面白いマンガなんだ」って。でも、やっぱり人がたくさん死ぬマンガなので、これを笑える感じにするのは非常に難しいなと感じましたね。

かなり悩んだし、このシリアスなマンガを茶化す感じで表現したら「ファンの方から叩かれるかもしれない」って思いました。でも、こんなの描いたことないし、実現できたら面白いから描きたいなって気持ちの方が強かったです。

──船津先生の目の付け所がスゴいと思いました。『金田一少年』の世界が、こんなにもツッコミどころやギャグ要素に溢れていたなんて。

船津:僕が『金田一少年』を読んで思った感想をそのまま描いた結果なんです。「犯人はこの時、どう考えていたのかな〜」って視点で読むと面白い点がたくさん見つかって。

蝋人形10体作る……?

大体、犯人がトリックやアリバイ作りなどで苦労している姿を想像すると笑いどころになりますね。

ちんたらしてたら死ぬ気温

──ちなみにマンガの題材にする犯人、事件についてはどうやって決めているんですか?

船津全て担当(フジカワ氏)が決めてます。

フジカワ:はい。単行本2巻までの話は、完全に僕のリクエストですね。『金田一少年』の最初の事件であるオペラ座館を第1話にしたり、ドラマのスペシャルとかで扱われた事件を優先的に選んだり。ギャグにしやすいかどうかは特に考えずに決めてます。

船津:例えば、悲恋湖伝説殺人事件なんかは難しかったですね。殺人の内容が残忍で、顔を剥いだり、バラバラにしたり。恐ろしすぎてギャグにしづらいですから。

──そうなんですか!? 僕は悲恋湖伝説殺人事件の遠野のS・Kのくだりがめちゃくちゃ好きです(笑)

キーワードの「S・K」に言葉を当てはめていく天丼スタイルの回

船津:遠野パイセン、妙に評判が良いんですよ。 母親からも連絡が来ましたからね「あのS・Kのやつが面白かった」って。S・Kは苦肉の策だったのですが。

フジカワ:船津先生からは最初、「悲恋湖伝説殺人事件は恐ろしすぎてネタにしづらい」って言われたんですよ。でも『金田一少年』の中でも特に人気の事件なので、とりあえずやってみてくれませんかってお願いしたんです。そしたらS・Kが完成していて。これはスゴいぞって思いましたね。

船津:こんなこと言って良いか分からないのですが、『金田一少年』の本編が狂っていれば狂っているほど面白いんですよね。イニシャルがS・Kのやつは全員殺すってめちゃくちゃじゃないですか。

「S・K」というイニシャルの人を全員殺そうとする、ぶっ飛んだ遠野パイセン

そういうめちゃくちゃなところも含めて、遠野パイセンが愛されキャラクターになったのだと思います。

淡々と答える船津氏。遠野のキャラクターが誕生した経緯をS・K(静かに語った)

両氏のオススメのマンガを紹介

──パーソナルな質問になりますが、最近読んだマンガでオススメの作品があれば教えてください。

船津『ピアノの森』ですね。アニメがめちゃくちゃ面白かったのでマンガも大人買いしたのですが、止まらないです。原稿に支障が出るレベルで。誉子(たかこ)が好きすぎて、「幸せになってくれ」って思いながらずっと読んでます。

船津:それと、ずっと読み続けていて、僕がもっとも影響を受けているマンガ『ギャグマンガ日和』です。もともとギャグマンガとかお笑いが好きなので。

フジカワ:僕は『進撃の巨人』ですね。今年で連載9周年を迎え、長期連載作品と言えると思うんですが、長く続いているマンガが話題になるタイミングは大体映像化する時なんですよ、アニメ化とか映画化とか。だけど『進撃の巨人』がスゴいのは、先日最新巻が発売された時にTwitterにトレンド入りしたんです。

10年近く連載を続けて、その人気を維持するだけでも難しいのに、それを更に上回る面白さを読者に提供している。そのパワーってスゴいなと思います。

今後の展望

──当初は単行本1冊で終わる予定だったマンガが、読者の人気に支えられて続いています。今後の展望についていかがですか?

フジカワ:人気が続く限りは続けて良い、ということになってますので。『金田一少年』の“Fileシリーズ”を全てマンガ化するとか、それぐらい続いたら良いなって思ってます。

※Fileシリーズ・・・『金田一少年』の中でも長編に分類される19本の事件をまとめて単行本化したもの。「速水玲香誘拐殺人事件」以降は”Caseシリーズ”にまとめられる。

──ということは……もしかして、キャラクターの中でもひときわ輝く、あの例のT(犯人)の登場もありえる?

フジカワ:あ〜。

船津:あ〜。

フジカワ:Tか〜。地獄の……ねぇ。

船津:あ〜。そうですねぇ……。

──(あ…… これもう、水面下で進んでるパターンだ)

船津:まぁ、高遠については信じられないぐらい苦労しました。原作でも隙がないキャラクターなので、これまでと同じスキームでギャグにするのが難しくて

──(言っちゃった!)

フジカワ:『犯人たちの事件簿』は「一般人が困る」ということがコンセプトの作品ですので、高遠を登場させるのは無理だと考えていたんです。彼は一般人ではなく、天才サイドの人間なので。描かない方が良いよ、と言う話だったのですが……。

船津1位になっちゃったから……。

フジカワ:そう。BOOK☆WALKERさんの企画で「犯人総選挙」というのを行いまして、「地獄の傀儡師」こと高遠遙一が1位になっちゃった。

金田一の最大のライバル、「地獄の傀儡師」高遠遙一

投票結果1位〜3位の中から、船津先生が選んだ犯人をマンガ化するという約束だったんです。でも、ここで投票するファンって一番熱いファンの方だと思うんですよね。

船津2回ぐらい諦めかけたんですけど、ファンの皆さんの期待に応えるということに挑戦しないと。それが恩返しですから。

── 先生ならきっと、期待に応えてくれるはずです! 最後に、読者の方に向けてメッセージをお願いします。

船津:『犯人たちの事件簿』は「読者の方に発見していただいたマンガ」だと思っています。僕もマンガ家として「読者の方に拾っていただいた」という気持ちが強い。なので、少しでも面白くてクレイジーな作品を届けていけるように頑張ります。それが僕にできる最大の恩返しなので、楽しみにしていてください!

フジカワ:『金田一少年』ファンの方々には、この作品を通じて本編連載当時のことを懐かしみながら話題にしていただければと思います。そして、まだ本編を読んだことがないという方はぜひ、ミステリーマンガの金字塔である『金田一少年の事件簿』の方も読んでいただきたいと思います。
このマンガが登場したことで金田一サイド、犯人サイドの双方向から作品を楽しむことができるようになったと思いますので!

── これからも応援しています。ありがとうございました!

『犯人たちの事件簿』はマガポケで

話題の『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』は「マガポケ」で定期的に更新されています。最新話では、ついに金田一の最大のライバル、「地獄の傀儡子」こと高遠遙一が登場するようですよ!

まだ『犯人たちの事件簿』を読んだことがないという方は、この機会にぜひチェックしてみてくださいね!

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