2018.05.26

【日替わりレビュー:土曜日】『スーパーカブ』蟹丹、トネ・コーケン、博

『スーパーカブ』

ホンダのスーパーカブ
1958年に初代「C100」が発売されて以来、燃費・積載能力・安定性など様々な利点から優れた足として日本のみならず世界中の人々に愛されてきた、小型オートバイの王様だ。
新聞配達や飲食店の出前など、街角の日常風景になじむこの名車は、2017年10月ついにシリーズ累計生産台数が1億台を突破。全世界で最もたくさん作られ、最もたくさん売られた乗り物となった。

その1億台突破の少し前にその名もズバリな小説『スーパーカブ』第1巻(2017年5月発売)が記念的に刊行されており、それをコミカライズしたのが、昨年末から「コミックNewtype」で連載中の同題マンガ『スーパーカブ』である。

主人公・小熊は山梨県の学校にかよう高校二年生の女の子。
父親は早くに亡くなり、母親は娘を捨てて失踪。頼れる親戚もないまま一人暮らしをしている。
楽しく付き合う友達はいない。必至に打ち込む趣味もない。ないない尽くしの孤独な境遇。
しかしそれでも彼女はとくに焦った様子もなく、淡々と日々を過ごすのみだ。

そんな彼女の生活で苦労といえるのは、坂続きの通学路を自転車で行き来するのがどうにもキツいこと。
毎朝ひーひー言いながらペダルをこいで、山向こうの学校をめざす小熊……そんなある時彼女の目にとまったのは、自分を追い越してすいすいと道を駆ける一台のオートバイだった。
これだ、と思いたちバイク屋さんを訪ねた小熊が手に入れたのは格安の中古二輪車。車種は、そう、スーパーカブだ。
何もない女子高生の、たったひとつの「ある」になったオートバイは、やがて彼女にさまざまな喜びや発見をもたらし、豊かにいろどられた青春の時間へと導いていく……。

初めてエンジン付きの乗り物を運転する時の、ちょっぴり大人気分な高揚感。
行動圏外だった遠くまで行けるようになる達成感。
徒歩や自転車で見慣れていたはずの景色が別物になる驚き。

「初めてオートバイに乗る」という経験と心理がさまざまな角度からとても丁寧に表現されており、いい原作がいいコミカライズをされた好例になっている。

バイクに乗ったことがあれば「そうそう」と記憶を刺激され、乗ったことがなければ味わってみたいとウズウズする。そんな感覚に満ちたマンガだ。

さらに、小熊が自分とは対極的な存在と思って、へだたりを感じていたお金持ちの優等生・礼子が、実はスーパーカブ愛好者で“カブ仲間”として友達になる流れも素敵だ。

バイクを単に題材上のフェティッシュな物体として画面に置くのではなく、バイクに乗る人間の情緒に火を付け、その人間のまわりに関係性を広げるという外向きの働きまで描いた、いうなれば健康的な世界観が本作の見どころといえる。

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miyamo

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