2018.06.03
【日替わりレビュー:日曜日】『魔法使いの印刷所』もちんち,深山靖宙
『魔法使いの印刷所』
昨今、異世界転生モノは数多く作品が出てきていますが、その中でもジャンルも細かく様々に展開されています。
スタンダードな冒険やバトルストーリー、まったり日常を描いたもの、異世界での職業や生業を活かしていく作品など、入りは「異世界転生」という一つのキーワードだとしても、バラエティ豊かに表現されていて、まだまだ新鮮味がある作品が登場しているのです。
本作『魔法使いの印刷所』は、異世界での職業・お仕事にフォーカスを当てながらも、現実世界のモノゴトと世界観をリンクさせた作品。
元々は、もちんち(も)先生がWeb上で公開していた2Pのマンガがきっかけとなり、そこから発展させたストーリーを原作に、『乃木坂春香の秘密』や『艦隊これくしょん -艦これ-』のコミカライズで知られる、深山靖宙先生が作画を担当されています。
主人公のミカは、コミケからの帰り道に異世界転生し、程度の差はあるものの全ての人が最低一つは魔法を使うという「魔法使い」の世界で生きることに。
専門の魔法使いによっても日々新たな魔法の研究がされていることから、元の世界に帰る魔法もあるのでは、と魔導書の即売会「マジックマーケット」──つまりはコミケの異世界版を開催するようになります。
『魔法使いの印刷所』第1話20・21 pic.twitter.com/FI9w6KWUeA
— 魔法使いの印刷所 (@awpoffice) 2017年10月3日
またそれだけに留まらず、自身が使えるようになった、紙に書かれた文章などを別の紙に転写する魔法「複写魔法」を活用して、印刷会社もスタート。これも印刷会社を続けていれば、元の世界に戻れる魔導書が持ち込まれる可能性がある、という目論見があってのもの。
こうして、マジケ主催と印刷会社社長という二足のわらじを履くことになったミカは、果たして現実世界へと帰ることができるのか──というのがお話の土台となります。
やはりおもしろいのが、ファンタジー世界でコミケや印刷会社をやった時の、現実との対比や同様の課題の表現の仕方。
違いでいうと、待機列でキレた魔法使いがゴーレムを召喚したり、ネクロマンシー(死霊魔法)を扱うサークルがいたり、印刷で使う紙は大聖樹の葉っぱ、などなど、ファンタジーを活かして表現の幅や規模感も大きくなり、ならではの表現であふれています。
また、現実と同じ部分は、マジケに参加する誰もが魔法が好きで、自分が欲しい本と出会うためにわくわくドキドキで参加していること。これは、正にコミケに参加する時の楽しみ方と一緒ですよね。
そして、ルールを守らない徹夜組への制裁、印刷所に特急対応を求めて駆け込むカスタマー、自分のお気に入りのジャンル(魔法)についてそれぞれ一家言ありお互い反発しちゃう人々など、課題的な部分はある種、人の根底にある考え方に発するものなので、ファンタジー世界にいっても同じなんだろうなあという妙な納得感もあります。
それから、第4話で登場する、マジケへの参加サークルをまとめるカタログも、サークルカットの絵たちが動き出すという、魔法世界らしいものになっていますが、そのサークルそれぞれの絵を描いた参加陣がとっても豪華。
もちんち先生や担当編集さんと交流のある皆様らしく、『先輩がうざい後輩の話』のしろまんた先生や『姉なるもの』の飯田ぽち。先生などが素敵なイラストを提供しており、まるで合同誌のように賑やかな見開きに仕上がっています。
同人界隈の自由さ・楽しさが伝わってきて、この作品の魅力もぐっと押し上げているカットです。
『魔法使いの印刷所』第4話16・17 pic.twitter.com/umqzPDbYmn
— 魔法使いの印刷所 (@awpoffice) 2018年1月1日
本作は、Twitterの公式アカウントで、毎話公開されていますし、もちんち先生による原作版もPixiv上にアップされています。
気になった方はぜひ一度チェックしてみてくださいね。
©深山靖宙,もちんち/KADOKAWA