2018.06.05

【日替わりレビュー:火曜日】『藤子・F・不二雄 SF短編 PERFECT版』藤子・F・不二雄

『藤子・F・不二雄SF短編 PERFECT版』

(1)ミノタウロスの皿

藤子・F・不二雄先生のSF短編はブラックな内容、オチが不明瞭がものが多くて、子供の頃に読んだときは気持ち悪かったり、モヤモヤして受け入れられませんでした。
それから20年以上経って、改めて『藤子・F・不二雄SF短編 PERFECT版』を読むと、内容の深さに感嘆するばかり。大人の舌だからこそ楽しめるコーヒーやビールの苦さのような。ピリッとした「皮肉」の苦味が刺激的です。

短編集1に収録されている「ミノタウロスの皿」「気楽に殺ろうよ」の2編が、「価値観の反転」をテーマにしています。
「ミノタウロスの皿」は、食用の人間が牛に飼われている星に落下した若者の話。美人のミノアが牛に食べられることを光栄に感じていて、いくら説得しても聞く耳を持たない恐ろしさ。食肉文化を逆転させる皮肉もここまですれば痛快です。

「気楽に殺ろうよ」は、食べることが恥ずかしい行為として認識されている世界の話。逆に駅のベンチでは学生同士がセックスしようとしたり、権利書があれば殺人もOKというあべこべな倫理感に、主人公だけが戸惑います。

ところが精神科医に相談すると、「増えすぎた人類を間引きするためには殺人は合理的」、「食欲は個体を維持するための独善的な欲望」「性欲は種族の存続を目的とする発展的な行為」と言いくるめられてしまいます。
人間の常識は「当たり前」のように受け入れているけど、絶対的なものじゃないことを皮肉っていて、オチもブラックです。

「カイケツ小池さん」は、常日頃から汚職事件や不正に怒りを燃やす小池さんの話。
小池さんはある日突然、スーパーマンのようなパワーを手に入れます。その力で痴漢を退治したり、若者の非行を咎めたり。やがてエスカレートしていって、気に食わない奴を念じたり紙に書くだけで殺せてしまう、『デスノート』的展開に。

飲食店やコンビニ店員の悪ふざけが炎上する事件が多発したことがありました。不適切な言動ですぐに炎上してしまう今のネット社会。
その心理の一つに、不特定多数の正義心があると言われています。

義憤に燃える小池さんがそれに重なり、1970年に描かれたマンガから、今のSNS炎上を皮肉っているようにも感じられるのです。

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かーずSP

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