2018.06.07

【2018年5月】マンガ家が選ぶ 今月の注目!新連載マンガ

毎月100本以上の新連載が始動しているマンガ戦国時代とも言うべき昨今。その中でも、マンガ家たちが注目した作品をピックアップしていく本連載。

今回は、2018年4月23日~2018年5月27日の間に始まった新連載マンガから「マンガ新連載研究会」(マンガ家による勉強会サロン)が着目した作品を紹介いたします。

『名探偵コナン ゼロの日常』

不勉強にして私は知らなかったのですが(まさに今回勉強した)、いま世間では、コナンに出てくるキャラクター、安室透が女性層を中心に大人気なんだそうです。というわけで、本作は安室透を主人公としたスピンオフ作品です。

このキャラクターの影響は凄まじく、なんと本作が開始したサンデー24号は売り切れ続出で入手困難になったというぐらいです。

正直、本作の第一話は安室透というキャラクターを知らなければ、なんだかよく分からない話なのですが、それにしても、読者をこれほど沸かせられるキャラを作った力量は凄まじい。このキャラクター造形テクニックは是非とも盗むべきだということで、当会の会員たちも「安室班」を結成し、このキャラクターの魅力の分析作業に入っています。

ところで、今月、コミックタタンでは「CITY HUNTER外伝 伊集院隼人氏の平穏ならぬ日常」もスタートしています。こちらは『CITY HUNTER』の名キャラクター、海坊主を主人公としたスピンオフ作品です。

どちらも名脇役を主人公としたスピンオフで、両者とも裏の顔を持ち、タイトルに「日常」が入り、舞台は喫茶店……。このあたりから「裏の顔を持つ名脇役」の共通項が見えてくる気がするのは、結論を急ぎ過ぎでしょうか……。

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『パパはゲイビ男優』

読者に緊張を与えて、与えて、与えた後に、解放するのはエンターテイメントの基本です。

例えば、「幽霊屋敷ホラー」だと、視聴者を怖がらせて、怖がらせて、怖がらせて、最後に主人公が脱出して屋敷が燃え落ちます。ストレスを溜めに溜めた後でホッとさせて、緊張感を一気に緩ませる作りになっています。

そして、本作も緊張と緩和の作り方が非常に上手い! 主人公は小学生男児を子に持つカリスマゲイビ男優なのですが……。

極めてBLチックな雰囲気の中で進む本作の第一話は、そんなゲイビ男優のイケメン主人公(♂)が子供の授業参観に臨むお話です。ところが、授業参観に来た主人公は、その場で「男盛りのパパ」の品定めを始めます。

品定めの結果、「千絵ちゃんのパパ」に狙いを定めた主人公。千絵ちゃんのパパをさっそく口説きに入ります。もちろん、読んでるこっちは大慌てです!

「や、やめろ~~~! いくらBL作品だって、やっていいことと悪いことがあるぞーッ! 小学校でノンケを口説くんじゃない! う、うわああァ~、トイレに連れ込んだァ~~ッ!?  やめろーッ、お父さんはその後、どんな顔して千絵ちゃんに会えばいいんだ! や、やめろーーッッ!!」

こうして読者をすごくハラハラドキドキさせて、「倫理的にそれは洒落にならんだろう!!」と思わせてから、本作はきれいに緩和させてくるのです。私は読んでる最中、完全に釈迦の掌の上でした。や・ら・れ・た~~~!

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『Kill the Rose』

ストーリー作品を作る上で、主人公のキャラ付けというのは非常に難しいものです。

理想としては、好感度が高く、誰にでも好かれ、みんなに共感してもらえるキャラクターが良いのですが、そんなもん作れません。
誰にでも好かれるようなイイ子ちゃんの主人公は、おうおうにして魅力に欠けるものです。「**さんは優しくてとっても良い人なんだけど……」っていうモテない男の典型みたいになってしまいます。

じゃあ、クセの強い悪人キャラにしてみたらどうか、というと、これは悪役や敵役としては映えるんですが、主人公としては難しいところです。読者に「嫌なやつだ」と思われては主人公は務まらないからです。
 
と、いうところで本作の話に入ります。本作はスケコマシの物語です。主人公がスケコマシ。複数の女を食い物にして生きているヒモ野郎です。そんなスケコマシのクソ野郎が、政争渦巻く王宮の中でエージェントとして色仕掛けを仕掛けていくお話です。

と、ここまで聞くと、とても好きになれそうもない主人公なのですが、実際読むと、そこまで嫌な気持ちになりません。というのは、主人公がぜんぜん羨ましくないからなんですね。
彼を巡って複数の女性たちが口汚く罵り合い、婚約者を寝取られた男が主人公に襲い掛かってくる……。そんな日々が主人公の日常なんです。ぜんぜん羨ましくない……。

「女を食い物にしまくるイヤ~~なヤツでも、特に羨ましくなければ成立する」

これは主人公キャラ造形上の一つのテクニックかもしれませんね。

『スタイリッシュチートBBAと貧乏JK』

主人公のキャラ造形の話の続きですが、主人公には「読者の共感のしやすさ」が求められます。そのため主人公が「人外」「機械」「老人」といった設定はあまり好まれません。読者が感情移入できないからです。

しかし、その風潮にも変化が起こってきたようです。本作、『スタイリッシュBBAと貧乏JK』は、視点人物こそ女子高生ですが、婆さんをメインに据えた作品となっています。

また、今月は爺さんが異世界転生する『じい様が行く』が始まっていますし、新連載ではありませんが、騎士の爺さんの旅物語『辺境の老騎士 バルドローエン』も人気を博しています。

もともと「老賢者」という元型は物語の中でよく用いられるモチーフでしたが(師匠キャラなど)、それでも主人公に起用されることはあまりなかったと思われます。昨今はマンガの作品数が増えたことにより、読者の多様な好みに対応できるようになり、以前よりも主人公のキャラ造形も幅が広がってきたのかもしれません

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『大汗ラブストーリー』

今月の注目広告マンガ。これまでの当連載でも、毎月さまざまな形の広告マンガを紹介してきましたが、今回も新基軸です。

本作は「サラリスト」という汗取りインナーの広告マンガなのですが、特筆すべき点は、作中で商品紹介がほとんど行われていないことです。広告マンガだと知らずに読んだら、最後の最後までほとんど気付かない程です。

商品宣伝を前面に押し出さず、普通のストーリーマンガのように読ませて、心地よい読後感と共にさりげなく商品をPRする。こういう広告マンガの形もあるんだな、と思わされました。

今後、おそらくマンガ業界はマンガ家が供給過剰となり、オリジナル作品の発表機会は減少し、逆に企業側からの宣伝用途でのマンガの需要が増えていくと予想されます。
そうなった時に、自身の創作欲求と企業のニーズをどうやって同時に満たしていくかがマンガ家には重要になってくると思われます。

本作はその一つのアンサーとなるのかもしれません。

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以上、100作品以上の中からピックアップした5作を紹介いたしました。他にも特筆すべき作品は幾つもありましたので、新連載作品に興味を持たれた方は、こちらから色々な作品を読んでみてくださいね。

この記事を書いた人

架神 恭介(@マンガ新連載研究会)

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